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一艘
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いつそう
弦月丸の
運命は
最早一
分、二
分、
甲板には
殘る
一艘の
端艇も
無い、
斯くなりては
今更何をか
思はん、せめては
殊勝なる
最後こそ
吾等の
望である。
浮べたか、
水のじと/\とある
縁にかけて、
小船が
一艘、
底つた
形は、
処がら
名も
知れぬ
大なる
魚の、がくり、と
歯を
噛んだ
白髑髏のやうなのがある。
つゞゐて
鳥か
船か
見え
分かぬ
程、
一點ポツンと
白い
影、それが
段々と
近づいて
來るとそは
一艘の
白色巡洋艦であつた。
五位鷺の
働くこと。
船一艘漕ぐなれば、
蘆の
穂の
風に
散る
風情、
目にも
留まらず、ひら/\と
上下に
翼を
煽る。と
船の
方は、
落着済まして
夢の
空を
辷るやう、……やがて
汀を
漕ぎ
離す。
私は
窓の
硝子越しに
海面を
眺めると、
星影淡き
波上には、一二
艘淋し
氣に
泛んで
居る
小端艇の
他には、
此大海原を
渡るとも
見ゆべき
一艘の
船もなかつた。