一纏ひとまと)” の例文
屹度きつともなくおなほりでせう。』と、ニキタはまたふてアンドレイ、エヒミチの脱捨ぬぎすてふく一纏ひとまとめにして、小腋こわきかかへたまゝてゝく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は兄の置いて行った書類をまた一纏ひとまとめにして、元のかんじんよりくくろうとした。彼が指先に力を入れた時、そのかんじん撚はぷつりと切れた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「武器は、一纏ひとまとめに、荷駄として、おいを着せ、要所へ先へ送っておく。そして人間のみを後から配置すればよかろう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前には其処此処そこここにちらばっていたのを、西常央にしつねのり島司が一纏ひとまとめにして、この通り碑を建てたという事や、昔甲冑かっちゅうを着けた騎馬武者がこの辺に上陸したことや
土塊石片録 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
それは一纏ひとまとめになって古い行李こうりの中に納められてある。今度漱石氏が亡くなったのに就いて家人の手によって選り出されたものが即ち座右にあるところの数十通の手紙である。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
受付けてくれない時は誰か有志家に一纏ひとまとめにして引取って貰うこと、その場合は外国人でも苦しくない、それも然るべき人が見出せない時はすっかり売り払って差支えないこと。
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あのね。家隆いえたか卿の歌にこんなのがあるのだよ。いいかね。——花をのみ待つらむ人に山里の雪間の草の春を見せばや。これなら分るだろう。雪間の草の春と一纏ひとまとめにいって、それを
その他にも、私には三つ、四つ、そういう未発表のままの、わば筐底きょうてい深く秘めたる作品があったので、おととしの早春、それらを一纏ひとまとめにして、いきなり単行本として出版したのである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼らは竹のきれや、木の枝をはしぐらいの長さにきって便所の箱の中に入れておく。そしてその御用済ごようずみの分は別の箱の中に入れておく。溜まると一纏ひとまとめにして山裾やますその清流で洗ってまたそれを使う。
こうしてつむめた藕糸は、皆一纏ひとまとめにして、寺々に納めようと、言うのである。寺には、其々それそれ技女ぎじょが居て、其糸で、唐土様もろこしようと言うよりも、天竺風てんじくふうな織物に織りあげる、と言う評判であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
実業を一纏ひとまとめに纏めて攻撃のまととなし、反動的に太古の仙人生活を主張したり、あるいは私産しさん破壊はかいして共同主義を唱えたりしやすくなり、またかくのごとくする者は、いかにも精神的なる人物
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
好い参考仏が一纏ひとまとまりになって集まっているのでした。
一纏ひとまとめにきちりと片付いている代りには、出すのが臆劫おっくうになったり、ほどくのに手数がかかったりするので、いざという場合には間に合わない事が多い。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『きっともなくおなおりでしょう。』と、ニキタはまたうてアンドレイ、エヒミチの脱捨ぬぎすてふく一纏ひとまとめにして、小腋こわきかかえたまま、ててく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
余はそのうちから子規が余にてて寄こした最後のものと、それから年月の分らない短いものとを選び出して、その中間に例の画をはさんで、三つを一纏ひとまとめに表装させた。
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのれいになく元氣げんきよく格子かうしけて、すぐといきほひよく今日けふうだいと御米およねいた。御米およね何時いつものとほふく靴足袋くつたび一纏ひとまとめにして、六でふ這入はいあとからいて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一纏ひとまとめにしてモッと大きなものでくくらなければならないと云ったならば、この学者は統一好きな学者の精神はあるにもかかわらず、実際にはうとい人と云わなければならない。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは何主義とか号してその主義を一纏ひとまとめに致します。これは科学にあっても哲学にあっても必要の事であり、また便宜な事で誰しもそれに異存のあるはずはございません。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みんな長くは持たない人ばかりだそうですと看護婦は彼らの運命を一纏ひとまとめに予言した。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また片づけらるべきものであるかのごとき語気で論じていたように記憶していますが——すなわちそういうように相反する事を同時にとなえておっては矛盾だから、モッと一纏ひとまとめにして
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御米がいつもの通り服や靴足袋くつたび一纏ひとまとめにして、六畳へ這入はいあとからいて来て
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「御父さまが後々のちのちのためにちゃんと一纏ひとまとめにして取って御置おおきになったんですって」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)