一昨年をとゝし)” の例文
かう言つて源太郎も、七十一で一昨年をとゝし亡つた祖母が、子供の時にこのおかめ人形を見た頃の有樣を、いろ/\想像して見たくなつた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一昨年をとゝしの夏帰省した時に比べると、うして千曲川ちくまがはの岸に添ふて、可懐なつかしい故郷の方へ帰つて行く丑松は、まあ自分で自分ながら、殆んど別の人のやうな心地がする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夕間暮ゆふまぐれなるまゆかげびんもつれたが、目鼻立めはなだちも判明はつきりした、容色きりやうのいゝのを一目ひとめると、あつ、と其處そこ飛脚ひきやく尻餅しりもちいたも道理だうりこそ。一昨年をとゝしくなつた女房にようばうであつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
‥‥一昨年をとゝしの春は大音寺前に一文ぐわし賣りて親せき近よらず故舊音なふ物なく、來る客とては惡處のかすに舌づゝみ打つ人々成りし、およそ此世の下ざまとてかゝる如きは多からじ
ちゝ一昨年をとゝしうせたるときも、はゝ去年きよねんうせたるときも、こゝろからの介抱かいはうよるおびたまはず、るとてはで、がへるとては抱起だきおこしつ、三月みつきにあまる看病かんびやう人手ひとでにかけじと思召おぼしめしのうれしさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ありましたとも、一昨年をとゝしの秋、お春の姉のおえいといふ娘が、何が氣に入らないか、お茶の水に飛込んで死にましたよ、その時お榮は十九、妹のお春より又一と際立まさつたきりやうで、母親のお米の歎きは大變でした」
去年も一昨年をとゝしも、ほら、行つたわね。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かう言つて源太郎も、七十一で一昨年をとゝしなくなつた祖母が、子供の時にこのおかめ人形を見た頃の有様を、いろ/\想像して見たくなつた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
一昨年をとゝしの春は大音寺前に一もんぐわし売りて、親せき近よらず、故旧音なふ物なく、来る客とては悪処のかすに舌つゞみ打つ人々成りし、およそ此世のしもざまとてかゝるが如きは多からじ
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
いきほひよく引入ひきいれしがきやくろしてさておもへばはづかしゝ、記憶きおくのこみせがまへいまには往昔むかしながらひと昨日きのふといふ去年きよねん一昨年をとゝし同商中どうしやうちゆう組合曾議くみあひくわいぎあるひ何某なにがし懇親曾こんしんくわいのぼりなれし梯子はしごなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其の一昨年をとゝしの春のことである。道臣は突然お時を連れて金毘羅參りに行くと言ひ出した。昔の主人筋の言ふことであるから、千代松夫婦は寧ろ喜んで承知した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)