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くつきよく
水流を
渉るの
勝れるに如かず、され共渉水亦
困難にして水中
石礫累々之を
踏めば滑落せざること
殆稀なり、衆皆
石間に
足を
突き入れて
歩む、河は山角を
沿ふて
甚しく
蜿蜒屈曲し
さうするとみんなが
遁げるやうに
岸へ
上つて
指を
出して
其の
先を
屈曲させながら
騷ぐ。
小さな
子供は
笊を
手にした
儘目には
手も
當ずに
聲を
放つて
泣く。
與吉は
恁うして
能く
泣かされた。
垂たる
形状は
蝋燭のながれたるやうなれど、
里地のつらゝとたがひて
屈曲種々のかたちをなして
水晶にて
工に作りなしたるがごとく、
玲瓏として
透徹るが
暾の
暉たるはものに
比ふべきなしと
加ふるに寒肌
粟を生じ沼気
沸々鼻を
衝く、
幸ひに前日来
身躰を
鍛錬せしが為め
瘧疫に
罹るものなかりき、沼岸の
屈曲出入は
実に犬牙の如く、之に
沿うて
渉ることなれば
進退容易に
捗取らず
勘次は
矢立の
如き
硬直な
身體を
伸長し
屈曲させて一
歩/\と
運んだ。
彼は
周圍に
無數な
樹木の
泣いて
囁くのを
耳に
入れなかつた。
加之彼は
自分の
耳朶に
鳴るさへ
心づかぬ
程懸命に
唐鍬を
打つた。