鶏頭けいとう)” の例文
旧字:鷄頭
桔梗ききょう女郎花おみなえしのたぐいはあまり愛らしくない。私の最も愛するのは、へちまと百日草とすすき、それに次いでは日まわりと鶏頭けいとうである。
我家の園芸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庭にはサボテン、鶏頭けいとう、ゼラニューム、その他の花が咲いている。茶を飲みながら、五郎は主人に弁当を頼んだ。主人は承諾しょうだくして言った。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
私は新らしい編上靴を穿いた足首と、膝頭ひざがしらこわばらせつつ、若林博士の背後に跟随くっついて、鶏頭けいとうの咲いた廊下を引返して行った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白粉花おしろいばなばかりは咲き残っていたが鶏頭けいとうは障子にかくれて丁度見えなかった。熊本の近況から漱石師の噂になって昔話も出た。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その年二百二十日の夕から降出した雨は残りなくはぎの花を洗流あらいながしその枝を地に伏せたが高く延びた紫苑しおんをも頭の重い鶏頭けいとうをも倒しはしなかった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鶏頭けいとうの花は遠国からの古い帰化草だと言はれたが、子供達にはそんな外来者どころか、ほんの身近な親しい花であつた。
雑草雑語 (新字旧仮名) / 河井寛次郎(著)
草花にははぎ桔梗ききょう、菊、すすき鶏頭けいとうなどの秋のものの外に西洋種も多く、今はサルビヤが真紅に咲きほこっていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
この青い秋のなかに、三人はまた真赤まっか鶏頭けいとうを見つけた。そのあざやかな色のそばには掛茶屋かけぢゃやめいた家があって、縁台の上に枝豆のからを干したまま積んであった。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
床の間には、もう北斗七星の掛軸がなくなっていて、高さが一尺くらいの石膏せっこうの胸像がひとつ置かれてあった。胸像のかたわらには、鶏頭けいとうの花が咲いていた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
「庭には鶏頭けいとうがある——ざくろがある、黍畑きびばたけがある、鶏が遊んでいる、おお、おお、いたちが出やがった、そら」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寝床のまん中にすわってからピストルをひざの上に置いて手をかけたまましばらくながめていたが、やがてそれを取り上げると胸の所に持って来て鶏頭けいとうを引き上げた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
花も二、三輪しか咲いていない。正面には女郎花おみなえしが一番高く咲いて、鶏頭けいとうはそれよりも少し低く五、六本散らばって居る。秋海棠しゅうかいどうはなお衰えずにそのこずえを見せて居る。
九月十四日の朝 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鶏頭けいとうの花壇を海底に沈めたかと疑われる、鮮紅色のとさかのりの一むら、まっ暗な海の底で、紅の色を見た時の物凄さは到底陸上で想像する様なものではないのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夕飯ゆうめしかゆにしてもらって、久しぶりでさいの煮つけを取って食った。庭には鶏頭けいとうが夕日に赤かった。かれは柱によりかかりながら野を過ぎて行く色ある夕べの雲を見た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
表手おもても裏も障子を明放あけはなして、畳の上を風が滑ってるように涼しい、表手の往来から、裏庭の茄子なす南瓜かぼちゃの花も見え、鶏頭けいとう鳳仙花ほうせんか天竺牡丹てんじくぼたんの花などが背高く咲いてるのが見える
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
少年も二三度は遊びに行つたことがあるが、荒れるにまかせた裏庭に、ジギタリスや日まはりや鶏頭けいとうが咲き狂つて、そろそろペンキの剥げかかつた病院の建物と、いい対照をなしてゐた。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
越後の出雲崎いずもざきではふじ豆、即ち上方かみがたでかき豆という豆がトテコウロウで、これは鶏頭けいとうという花の小片をさやの割れ目に挟み楊枝ようじを足にして、実際に雞をこしらえて玩具にしている処もあって
鶏頭けいとうの十四五本もありぬべし 子規
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
には鶏頭けいとうにやすみませう
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鶏頭けいとうの昼をうつすやぬり枕
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鶏頭けいとう高く咲く庭に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
桔梗ききょう女郎花おみなえしのたぐいは余り愛らしくない。わたしの最も愛するのは、糸瓜と百日草とすすき、それに次いでは日まわりと鶏頭けいとうである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜になってからはさすが厄日の申訳もうしわけらしく降り出す雨の音を聞きつけたもののしかし風は芭蕉ばしょうも破らず紫苑しおんをも鶏頭けいとうをも倒しはしなかった——わたしはその年の日記を
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとえば目垣めがきでも屋根でも芙蓉ふようでも鶏頭けいとうでも、いまだかつてこれでやや満足だと思うようにかけた事は一度もないのだから、いくらかいてもそれはいつでも新しく
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これはしごく暢気のんきな鼻歌でありました。家の外には秋草の中に鶏頭けいとうが立っている。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その廊下の左右は赤い血のような豆菊や、白い夢のようなコスモスや、紅と黄色の奇妙な内臓の形をした鶏頭けいとうが咲き乱れている真白い砂地で、その又むこうは左右とも、深緑色の松林になっている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鶏頭けいとうのうしろまでよく掃かれあり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
鶏頭けいとうもいつぱい火事くわじになる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すすきに次いで雄姿堂々たる草花は、鶏頭けいとう向日葵ひまわりである。いずれも野生的であり、男性的であること云うまでも無い。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道傍みちばた、溝のほとりに萩みだれ、小さき社の垣根に鶏頭けいとう赤きなど、早くも園に入りたる心地す。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
表には型ばかりのあらい垣根をって、まだ青い鶏頭けいとうが五、六本ひょろひょろと伸びているのが眼についた。門の柱には「西洋写真」という大きい看板が掛けてあった。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)