額際ひたひぎは)” の例文
御酒ごしゆをめしあがつたからとてこゝろよくくおひになるのではなく、いつもあをざめたかほあそばして、何時いつ額際ひたひぎはあをすぢあらはれてりました。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
広間の燈影ひかげは入口に立てる三人みたりの姿をあざやかに照せり。色白のちひさき内儀の口はかんの為に引歪ひきゆがみて、その夫の額際ひたひぎはより赭禿あかはげたる頭顱つむりなめらかに光れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よくあるやつさといひ度さうな、きようの乘らない相手の態度には頓着無く、額際ひたひぎはを汗ばませて喋つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
けれどもながあしを大きく動かした代助は、二三町もあるかないうちに額際ひたひぎはあせを覚えた。彼はあたまから鳥打をつた。黒いかみ夜露よつゆに打たして、時々とき/″\帽子をわざとつてあるいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
前後ぜんごあしぼんでのそりとまつて、筑波つくばやま朝霞あさがすみに、むつくりとかまへながら、一ぽん前脚まへあしで、あの額際ひたひぎはからはなさきをちよい/\と、ごとくちのやうにけて、ニタ/\わらひで
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
体を此格好にしたゞけでも、もう慰藉なぐさめになり歓喜を生ずるのである。セルギウスは俯伏うつふしになつた。髪の毛が顔に掛かつた。もう大分髪の毛のまばらになつた額際ひたひぎはを、湿つて冷たい床に押し当てた。
額際ひたひぎはからジリジリと脂汗が流れて、宙を見上げる瞳穴どうけつが夕立空のやうにかき亂れると見るや、美しい顏が、全身を絞め上げる死の苦惱に痙攣けいれんして、見る/\蒼黒く、そして紫色に變つて行くのです。
じんだから」と云つた。今迄いままで日のとほんだ空気のしたで、うごかしてゐた所為せゐで、ほゝところほてつて見えた。それが額際ひたひぎは何時いつもの様に蒼白あをしろかはつてゐるあたりに、あせが少し煮染にじした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「左の額際ひたひぎはに傷でもあるのか、いつでも膏藥かうやくを貼つてゐたが——」