頬被ほおかぶり)” の例文
なだれに帯板へ下りようとする角の処で、頬被ほおかぶりした半纏着はんてんぎが一人、右側のひさしが下った小家の軒下暗い中から、ひたひたと草履で出た。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗いのでよくは分からないが、頬被ほおかぶりをした上に帽子をかぶり、背中にはバナナの空籠あきかごを背負っている男が、ソロソロ井戸端に近づいてゆく。……
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤い友禅のそでの長いのをていましたが、誰かの黒っぽい羽織を上に引張って手拭てぬぐい頬被ほおかぶりをし、遊び人とでもいうつもりでしょう、拳固げんこふところからのぞかせて歩くのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
塩町しおちょうから大伝馬町おおでんまちょうに出る。本町を横切って、石町河岸こくちょうがしから龍閑橋りゅうかんばし鎌倉河岸かまくらがしに掛る。次第に人通が薄らぐので、九郎右衛門は手拭を出して頬被ほおかぶりをして、わざとよろめきながら歩く。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
うす青いしまの浴衣だか単衣ひとえだか、へこ帯のちょい結びで、頬被ほおかぶりをしたのが、菅笠をね、かぶらずに、お前さん、背中へ掛けて
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葉へも、白く降積ったような芭蕉の中から、頬被ほおかぶりをした、おかしな首をぬっと出して、ずかずかと入った男があるんです。はかま股立ももだちを取っている。
つかつかと出て、まだしずくまぬ、びしょぬれの衣を振返って、憂慮きづかわしげに土間に下りて、草履をつっかけたが、立淀たちよどんで、やがて、その手拭を取って頬被ほおかぶり
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とずんぐり者の頬被ほおかぶりは肩をゆすった。が、閉ったばかり、いささかも長い幕間でない事が、自分にも可笑おかしいか、鼻先はなっさき手拭てぬぐい結目むすびめを、ひこひこと遣って笑う。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここらに色鳥の小鳥の空蝉うつせみ鴛鴦おしどり亡骸なきがらと言うのが有ったっけと、酒のいきおい、雪なんざ苦にならねえが、赤い鼻尖はなさきを、頬被ほおかぶりから突出して、へっぴり腰でぐ工合は
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳のしずくも青い尾をく。ふと行燈に蟷螂かまきりでも留ったとする……まなこをぎょろりと、頬被ほおかぶりで、血染のおのを。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは、清葉とお千世が、この日、稲葉家へ入ろうとして、その露地から出て、二人を見て逃げるのを知った、のッそり頬被ほおかぶりをした昼の影法師と同じ風体の男である。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蚊が居ないという裏町、俗にお園小路ととなえる、遊廓桜木町の居まわりに在り、夜更けて門涼かどすずみの団扇が招くと、黒板塀の陰から頬被ほおかぶりのぬっと出ようというすごい寸法の処柄
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬被ほおかぶりを取りてちりを払い、「危険けんのん々々。御馬前に討死をしようとした。安くは無い忠臣だ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
処へ、荷車が一台、前方むこうから押寄せるが如くに動いて、来たのは頬被ほおかぶりをした百姓である。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
破毛布やぶれげっとまとったり、頬被ほおかぶりで顔を隠したり、中には汚れた洋服を着たのなどがあった、四五人と道連みちづれになって、笑いさざめき興ずるていで、高岡を指して峠を下りたとのことである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬被ほおかぶりのずんぐり者は、腕を組んで立ったなり、こくりこくりと居眠る……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このていが、稀代に人間というものは、激しい中にも、のんきな事を思います。同じ何でも、これが、もしふもとだと、頬被ほおかぶりをして、つぶてをトンと合図をする、カタカタと……忍足しのびあしの飛石づたいで………
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足駄穿あしだばき尻端折しりっぱしょりで、出会頭であいがしらに、これはと、頬被ほおかぶりを取った顔を見ると、したり、可心が金沢で見知越みしりごしの、いま尋ねようとして、見合わせた酒造家の、これは兄ごで、見舞に行った帰途かえりだというのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時次郎でない、頬被ほおかぶりしたのが、黒塀の外からヌッと覗く。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、頬被ほおかぶりのままで、後を見た、肩を引いて
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬被ほおかぶりがまたわめく。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)