むずか)” の例文
「小野田さんと二人で、ここでついた得意でも持って出て、早晩独立ひとりだちになるつもりで居るんだろうけれど、あの腕じゃまずむずかしいね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
馬上、金瓢きんぴょうの下、かぶとのびさしに、かげって見える秀吉の眉にも、こんどは少し、むずかしい顔つきが見られた。年齢とし、このとき四十二。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも何もそんなむずかしい御山おやまではありません。ただ此処ここ霊山れいざんとか申す事、酒をこぼしたり、竹の皮を打棄うっちゃったりするところではないのでございます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ドクトルといっしょに、デスクのほうへ歩を移す)ねえドクトル、紙の上で哲学者になるのはやさしいが、実際となるとじつにむずかしいですね!
いよいよわたくし病勢びょうせいおもって、もうとてもむずかしいとおもわれましたときに、わたくし枕辺まくらべすわってられるははかってたのみました。
利にさとい商人たちはこれにつけ込みましたから、非常な早さで蔓延はびこりました。そのため手間のかかる本藍はこれに立ち向うことがむずかしくなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
庭のすみに置くか、中潜りの枯木戸の近くに在るものだが、此のつくばいの位置はむずかしくも言われ、事実、まったくその位置次第で庭相が表われやすい。
庭をつくる人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「へっへ。御冗談。そんなシチむずかしいこたあ知りませんがね。どうしたもんでごわしょう、この件は」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
揃った肋骨のはやい動きの中から一人を選ぶのは、むずかしかった。ことに日本人の観賞の眼も共に選ばれていることも、この博学なヨハンの太った笑いの底にひそんでいた。 
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
都会ではむずかしいものに見える愛の方法も、至極簡単なものでいいことを会得させる田舎暮らしよ! 一人の少女の気に入るためには、かの女の家族の様式スタイルみ込んでしまうが好い。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
むずかしい法律的な文章はなんのことやら判らなかった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「外せば、外したまま懸けるを忘れ、懸ければ外すことをつい忘れ。なかなかその心機を転じることが、われらにはむずかしゅうござりまする」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨降りの中では草鞋わらじか靴ででもないと上下じょうげむずかしかろう——其処そこ通抜とおりぬけて、北上川きたかみがわ衣河ころもがわ、名にしおう、高館たかだちあとを望む
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日が暮れる頃に、お島は物置の始末をして、やっと夕飯に入って来たが、父親はむずかしい顔をして、いつか長火鉢の傍でぜんに向って、お仕着せの晩酌をはじめているところであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
のみならず、老公がご一代をかけ、また藩の財力をかたむけたご事業は——あの大日本史の完璧かんぺきは、まずむずかしい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあとでは、われらの骨すらお求めあるもむずかしかろう。ついては、可惜あたら、灰となすにも忍びぬ品々を、貴公の手を経て、世にお戻しいたしたい。お受け取りあれや
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
進む決断はやすく、退かせる果断はむずかしい。——内部の不平、世上のあざけり、自己の面子メンツ、あらゆる意味で、甘んじて負けて引き退がるほど、困難なことはない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂布の上に董卓あり、董卓の側に呂布のついているうちは、到底、彼らを亡ぼすことはむずかしい。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵の眉が、すこしむずかしく変っている。その気色に、伊織はあわててまた、足を引っ込めて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熊太郎に、無理に命じたものの、成るか成らぬか、十中八、九までは、むずかしい望みと案じていたが——かく成就したことは、まったく神明の御加護とただありがたく思われる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
財務の名匠めいしょうたることは、戦陣の名将たる以上、人間としてむずかしいものとみえる。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人生、四十五十の境ほど、あやまち多いときはない。世の信望、地位の得意、みなこの頃にあるが、ひとたびすべると、若い時代とちごうて、出直しのむずかしい山坂じゃ。——そちも大成を心がけてくれよ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あえむずかしく事を取り上げた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)