雌鶏めんどり)” の例文
そんな時には彼女は自分の身を、鶏小屋に雄鶏おんどりがいないとやはり夜っぴて眠らずに心配しつづける雌鶏めんどりにひきくらべてみるのだった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こんな所へ来て、こっそり髪をつくってもらうなんて、すごく汚らしい一羽の雌鶏めんどりみたいな気さえして来て、つくづくいまは後悔した。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その側には、トサカの美しい、白い雄鶏おんどりが一羽と、灰色な雌鶏めんどりが三羽ばかりあそんでいたが、やがてこれも裏の林の中へ隠れてしまった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕はたびたび見たが、ひなやしなっている雌鶏めんどりかたわらに、犬猫いぬねこがゆくと、その時の見幕けんまく、全身の筋肉にめる力はほとんど羽衣はごろもてっして現れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
金持かねもちは、かごのなかはいっているにわとりました。それは、ひくい、ごまいろの二雌鶏めんどりと、一のあまりひんのよくない雄鶏おんどりでありました。
金持ちと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
孔雀はその前の年に雌に死別れた男鰥をとこやもめだつたのに、雌鶏めんどりには一向見向きもしないで、鳥冠とさかあか雄鶏をすばかりをつけ廻してゐた。
たった一羽のひなをもっていて、しかもそれがアヒルの子であったという雌鶏めんどりのように、ただ一つの思想をいだいている人々。
雌鶏めんどりのことばに、雄鶏おんどりも羽ばたきした。——袁家えんけから申しこんできた「共栄の福利を永久にわかたん」との辞令が、真実のように思い出された。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雌鶏めんどりたちの方では別になんにも言いはしない。ところが、だしぬけに、彼女はとびかかって行って、うるさく追い回す。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
庭じゅうを追いかけまわして、やっとのことで雌鶏めんどりをつかまえると、爺さんは荒縄でその両脚をくくった。そして、無花果いちじくの樹の根もとに連れて行った。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
十羽ほどの鶏を籠に入れて、売りに来た者がありまして、雌鶏めんどり雄鶏おんどりのひとつがいを買いましたが、雌鶏の方は夏の末にちてしまいまして、おすの方だけが残りました。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いまや、雄鶏おんどりも、雌鶏めんどりも、七面鳥、鵞鳥がちょう家鴨あひるに加えて、牛や羊とともどもに、みな死なねばならぬ。十二日間は、大ぜいの人が少しばかりの食物ではすまさないのだ。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
からすきつね問答もんどう驢馬ろばと小犬の問答、雄鶏おんどり雌鶏めんどりの問答などをのこらず知っています。動物どうぶつむかしは口をきいたということをひとからいても、ローズ・ブノワさんはちっともおどろきません。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
好天気の初夏の日盛りだのに、山の手の往来であるがためか、人の通って行く姿も見えない。と、一羽の雌鶏めんどりであったが、小さい鶏冠とさかを傾けながら、近所の犬にでも追われたのであろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昧暗まいあんから暁へ移った庭へ、雄鶏おんどりが先へ飛び降りて、ククと雌鶏めんどりを呼んだ。
父の俤 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それは、ポーラとの結婚を祝する座員ばかりの水入らずの宴会の席で、ポーラがふざけて雌鶏めんどりのまねをして寄り添うので上きげんの教授もつり込まれて柄にない隠し芸のコケコーコーを鳴いてのける。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの人はつまり女狐と住んでいたおとなしい雌鶏めんどりでした。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
婦人はスムウト氏がユウタア州の生れだといふ事を訊くと、寡婦やもめ雌鶏めんどりのやうにぐつと反身そりみになつて近づいて来た。
はとは小屋へはいる。一羽の雌鶏めんどりはけたたましく鳴きながら、雛鶏ひよこたちを呼び集める。用心堅固な鵞鳥がちょうどもが、裏庭から裏庭へがあがあ鳴き立てている声が聞える。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そして、金網かなあみったかごのなかをのぞきますと、なるほど、くびながくてあかい、たかい、けづめのするどくとがった雄鶏おんどりと、一のそれよりややからだちいさい雌鶏めんどりがいました。
金持ちと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
俵のかげから一羽の雌鶏めんどりがひらりと飛び出した。
夢のお七 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「娘がお有りだつて。」徳富氏は雌鶏めんどりがひしたに卵を一つ見つけた折のやうに声をはづませた。「それぢや原稿をあげない事もないが、その代りこゝに一つ条件がある。」
一晩も鶏小屋で寝たことがなく、それこそ一羽の雌鶏めんどりさえ知らなかった。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ついで、中庭を歩きまわっていた、たった一羽の雌鶏めんどりが階段を昇って行って、くちばしで、まっている扉をつついた。窓のほうにくびを伸ばした。いつもの野菜屑が落ちて来ないので、出て行ってしまう。
雄鶏は自分の雌鶏めんどりをみんな呼び集める。そして、その先頭に立って歩く。見よ、彼女らは残らず彼のもの。どれもこれも彼を愛し、彼をおそれている——が、「もう一つの」は、燕どもがあこがれの主。