銅色あかがねいろ)” の例文
身長たけが非常に高かった。五尺七、八寸はあるらしい。肉付きもよく肥えてもいた。皮膚の色は銅色あかがねいろでそれがいかにも健康らしかった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
色が生白くないのみならず、本来、銅色あかがねいろをしたところへ、房州の海で色あげをして来たものですから、かなり染めが利いているのです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
銅色あかがねいろ薔薇ばらの花、人間のよろこびよりもなほ頼み難い銅色あかがねいろ薔薇ばらの花、おまへのいつはり多い匂を移しておくれ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
マドンナの画額ゑがくの上の輪飾になつてゐるのは玉葱である。懸時計の下に掛けてあるのは、あごき通した二十匹ばかりのにしんで、腹が銅色あかがねいろに光つてゐる。
その男の顔色はまったく銅色あかがねいろをしておりまして、身には高価な外国の衣服をつけ、帯には短剣をびているのが、老婆のバルバラの提灯で見えました。
が、髪の根にうごめいてゐるのは、小さな虱と思ひの外、毒々しい、銅色あかがねいろの、大きな百足むかでばかりであつた。
老いたる素戔嗚尊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
気の小さい割には、からだの厳丈づくりで、厚手に出来たくちびるや鼻の大きい銅色あかがねいろの皮膚をした彼は、あきれたような顔をして、障子もふすまもびしょびしょしたちゃの入口に突立っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
桜色にもあらず、緋桃ひももの花でもなし、りたてたるつむりより顔より首筋にいたるまで銅色あかがねいろの照りに一点のにごりも無く、白髪しらがもまじる太きまゆをあげて心まかせの大笑ひなさるる時は
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
銅色あかがねいろのすすけた顔に、ぶたのような無愛想な小さいをしておまけに額からこめかみへかけてたたまれているしわの深いことといったら、わたしが生れてこのかた見たこともないほどだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
扁平へんぺいな漁場では、銅色あかがねいろの壮烈な太股ふとまたが、林のように並んでいた。彼らは折からのかつおが着くと飛沫ひまつを上げて海の中へんだ。子供たちは砂浜で、ぶるぶるふるえる海月くらげつかんで投げつけ合った。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
よべの嵐に吹き寄せられた板片木片を拾い集めているのである。自分は行くともなく其方そっちへ歩み寄った。いつもの通りの銅色あかがねいろの顔をして無心に藻草の中をあさっている。顔には憂愁の影も見えぬ。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ずんぐりの高い、銅色あかがねいろ巌乗造がんじょうづくりな、年配四十五、六、古い単衣ひとえすそをぐいと端折はしょって、赤脛からずね脚絆きゃはん、素足に草鞋わらじ、かっとまばゆいほど日が照るのに、笠はかぶらず、その菅笠すげがさの紐に、桐油合羽とうゆがっぱたたんで
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銅色あかがねいろのうろこ雲湿潤しめりりもえて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
張りつけたようにかかっている銅色あかがねいろの月へ眼をやり、例の他界的の響きのある声で、あこがれるように歌うように
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老婆のバルバラの話によると、わたしが司祭館を出発した晩にたずねて来たかの銅色あかがねいろの男が、翌あさ無言でわたしをかついで来て、すぐに帰って行ったということです。
バルバラは、わしが牧師館を出た夜にたづねて来たのと同じ銅色あかがねいろの顔の男が、次の朝、戸をしめた輿にのせてわしを連れて来て、それから直ぐに行つてしまつたと云ふ事を聞いた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
「いえ、銅色あかがねいろでございます」