鉄扉てっぴ)” の例文
旧字:鐵扉
城方の将士は、力尽きて、その中へ追い込まれたが、つけ入る明智の兵を、せつなに断つため、どんと咄嗟とっさ鉄扉てっぴを閉めたのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門の鉄扉てっぴの外側に子守が二、三人立って門内の露人の幼児と何か言葉のやりとりをしていると、玄関からたくましいロシア婦人が出て来て
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
守青年は、その門前で自転車を降りて、鉄扉てっぴを押し試みると、なんなく開いたので、そのまま玄関の石段を上って、ベルを押した。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
築地外科病院の鉄扉てっぴは勿論しまって居た。父のと思わるゝ二階の一室に、ひいた窓帷まどかけしに樺色かばいろの光がさして居る。余は耳を澄ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一同は、ワッといって、入口のの方へ、先を争って駆けだした。ガラガラと、重い鉄扉てっぴが、遠慮会釈えんりょえしゃくなく、引き開けられる物音がした。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人形大尽勘兵衛は、名人の出馬を得たのにもうほくほくでしたから、ただちにかぎを錠にはめて、鉄扉てっぴと見える大戸前をあけにかかりました。
中央公園脇の王様丘コングス・ヘイに、王城のような大邸宅を構えて、定紋打った大門の鉄扉てっぴくぐってから、両側に並んだ石造の獅子や、毛氈もうせんを敷き詰めたごとき眼も遥かな芝生しばふ
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ははァ、ここは食糧室になっていたんだな。むこうの鉄扉てっぴで、台所につづいていたわけだ」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こうして、マタ・アリはいつからともなく、一度内部をのぞいたが最後、死によってでなければ出ることを許されない、鉄扉てっぴのようなドイツ密偵機関に把握されている自分を発見したのである。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
もちろん堂内の窓といふ窓は鉄扉てっぴをかたくとざしてあります。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
云ったかと思うと、ガタガタと走り去る足音、バタンとしま鉄扉てっぴの音、そして、その外から聞えて来る、ゾッとする様な悪魔の笑い声。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すでに城門は大手といわずどこも鉄扉てっぴを閉めてある。味方の総くずれを追迫して、敵の大軍はもう城下間近まで来ているのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ、四次元振動か。なるほど、四次元振動で、海が見えなくなったり、鉄扉てっぴを透して侵入したり、ふしぎなことをして、私を
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかもこないだあの三人連れは確かに重い鉄扉てっぴの錠前をガチャガチャと懸けていたにもかかわらず、今見ればそれは風雨にさらされてここ何カ月も手を触れたこともないらしく
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ケチンにつづく廊下を鉄扉てっぴで遮断して、冷房つきの食料庫にこしらえなおした。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
城門の鉄扉てっぴが閉まる時刻は、大陸の西厓さいがいにまっ赤な太陽が沈みかける頃で、望楼の役人が、六つのを叩くのが合図だった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無名突撃隊をひきいるカールトン中尉は、衝突のときに、はげしく頭部を鉄扉てっぴにぶっつけて、重傷を負っていた。だが、彼はさすがに軍人であった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから、例の締め切った門の鉄扉てっぴをよじのぼり、飛び降り、暗闇くらやみの森を一目散に駈け抜けて、道もない草原へ出た。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すでにかたく鉄扉てっぴを閉じている城門と、濠の距離とを眼ではかりながら光忠はつぶやいた。そう疑われるほど、四囲の空気はしいんとしていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十段ばかり上ると、そこに巌丈がんじょう鉄扉てっぴがあって、その上に赤ペンキで、重大らしい符牒ふちょう無雑作むぞうさに書かれてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「警官の山? そんなものは我輩にとっては無に等しい。『開け、セザーム』俺はこの呪文で、大牢獄の鉄扉てっぴを開かせたこともある。ルパンの字引じびきには『不可能』の文字はないのだ」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、それからは一切、城門の鉄扉てっぴを閉じ、へきを高うし、殻の如くただ守っていた。しかし城塁の中ではこんどは不思議な現象がおこりだしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見廻すと、そこは倉庫らしく、大きな鉄扉てっぴが六つほど並んで居り、その上には1とか2とか、いちいち番号がうってあった。何を入れてある倉庫だろう?
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勿論ささやき声だから棺と鉄扉てっぴと二重の外まで、聞こえる筈はない。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのおもても遠くからかんばかりに、城門の内外には、篝火かがりびがどかどか燃えさかっている。そしてそこの鉄扉てっぴは八文字に開け放たれてあるではないか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入口にピタリと身体をつけていたが、やがて大きな鉄扉てっぴが、地鳴りのような怪音と共に、静かに左右へ開いた。私達三人は滑るようにして内へ駈けこんだ。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どよめきの中ではこんな声がして、城壁の墻頭しょうとうから無数な人間の首が外をのぞいた。しかし鉄扉てっぴのひらく様子はない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういって彼は物慣れた手つきでドライバーを手にとり、人造人間の胴中をしめつけている鉄扉てっぴのネジをはずしていった。間もなく人造人間のはらわたが露出した。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで、やむなく、私は、入口の鉄扉てっぴを明けにかかった。いろいろの道具をもってきて、試みてみたが、扉はぴたりと閉ったままで、なかなか開きそうになかった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかもなお、勝家以下、北ノ庄一門の首脳者は、ことごとく天守の一閣にって、あらゆる防禦戦を策した。この天守は、九層造りの、鉄扉てっぴ石柱で、堅牢けんろう無比なものだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といいながら、門の中に飛びこむが早いか、ピタリと鉄扉てっぴを閉め、ピーンと錠を下ろしてしまった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頑丈な鉄扉てっぴは、いくら呶鳴っていても答えがないので、半兵衛は、長々とそういった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや狭い坑道こうどうがあったが、その西へ続くものは、重々しい鉄扉てっぴがときどき開かれたが、その東へ通ずる坑道は何故なにゆえか、厳然げんぜんと閉鎖されたまま、その扉に近づくことは
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
合言葉をたしかめ、鉄扉てっぴをひらいた。諜報の者らしい影がツイと消え込む。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんでんがえしで何十枚という鉄扉てっぴが穴をふさいだため、かの時限爆弾が炸裂さくれつしたときには、博士は何十枚という鉄扉の蔭にあって安全この上なしであったというのです
どんな恋も、この厳戒の眼と、この鉄扉てっぴは破り得なかった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういえば、湯河原中佐が、秘かに、司令官の室内に忍びこみ、鍵らしいものを盗んで、地下街の一隅に設けられた秘密の鉄扉てっぴを開き、その中に姿を一時隠したことがあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すわ、来たぞ」と、鉄扉てっぴと鉄甲はひしめいた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三吉の耳許で、突然、金属のれ合う音がした。はッと驚いて、頭をあげてみると、いままで岸壁のようにらぎもしなかった鉄扉てっぴが、すこしずつ手前の方へいてくるのだった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、巨大な鉄扉てっぴをギイと左右へ押し開いた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
床の上には丸い鉄扉てっぴ儼然げんぜんと閉じていて、蹴っても踏みつけても開こうとはしない。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、鉄扉てっぴを八文字に開いた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(こりゃ、変だ!)にわかに背筋が、ゾクゾクと寒くなってきた。そこへ又その怪しい物音が……。こわいとなると、なお聴きたい。重い鉄扉てっぴ耳朶みみたぶをおっつけて、あっしァ、たしかに聴いた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鉄扉てっぴ、直ちに内より開かれ
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ドクトルは、遂に鉄扉てっぴを焼き切った。書類戸棚は、やがて楽々と左右に開かれた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八木君は、もう一度、一番奥の重い鉄扉てっぴのところへいってみた。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二三間先の、鉄扉てっぴが、鈍い音を立てて鳴った。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)