みに)” の例文
宇佐川鐵馬は小さい身體ををどらせると、苦もなく生垣を越えて、四角な顏をみにくく歪めたまま、逃げ腰乍ら一刀の鯉口こひぐちを切ります。
その表面を無残にもかきいた、生々しい傷痕のみにくさとが、怪しくも美しい対照をして、彼の眼底に焼きついたのであった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
現在げんざいわたくしとて、まだまだ一こう駄眼だめでございますが、帰幽当座きゆうとうざわたくしなどはまるでみにくい執着しゅうじゃく凝塊かたまり只今ただいまおもしてもかおあからんでしまいます……。
さるが故に、私は永代橋えいたいばしの鉄橋をばかへつてかの吾妻橋あづまばし両国橋りやうごくばしの如くにみにくいとは思はない。新しい鉄の橋はよくあたらしい河口かこうの風景に一致してゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と、こう考えると、彼の空中に編み上げる勝手な浪漫ロマンが急に温味あたたかみを失って、みにくい想像からでき上った雲の峰同様に、意味もなく崩れてしまった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなみにく、さかしらをすと酒のまぬ、人をよく見ば猿にかも似む。……これは前にも一度読んだね。
浮標 (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
娘たちはみにくかったが、父親に似て色の白いのや、母親似で太くたくましいので、とにかく四隣を圧し、押えに番頭さんの女房であるせた、ヒョロヒョロの青黄ろい、しわの多い
くちもとはちいさからねどしまりたればみにくからず、一つ一つにとりたてゝは美人びじんかゞみとほけれど、ものいふこゑほそすゞしき、ひと愛嬌あいけうあふれて、のこなしの活々いき/\したるはこゝろよものなり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
みにくさを見せらるゝ為に、彼は蛇を忌み嫌い而して恐るゝのであるまいか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
豆ランプの光で見るスズメの顔はみにくかった。森ちゃんが、こいしい。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
傷と言つては、玉の首筋に、みにくゝ紐の跡が殘つて居るだけ、いかにも美しい人形でもそつと置いたやうに、床の上に安置されてゐるのでした。
今日の永代橋には最早や辰巳たつみの昔を回想せしむべき何物もない。さるが故に、私は永代橋の鉄橋をばかえってかの吾妻橋あずまばし両国橋りょうごくばしの如くにみにくいとは思わない。
あのせた、蒼白あおじろい、まるで幽霊ゆうれいのようなみにくい自分じぶん姿すがた——わたくしてぞっとしてしまいました。
赤ら顏の丈夫さうな女で、調子の高い、明けつ放しな感じが、頭のみにくさをカヴアーして、妙に人を親しませます。
この女の顔——あでやかなうちにひそむ、深沈たる美しさと、みにくい赤痣や、欠けた前歯の奥に隠された、一種の清らかさには、どうしても忘れられないものがあったのです。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お浜の顔を見ると、たちまちおよつに蘇生よみがえる怨み、柱に絡んだ身体からだみにくく歪むと、眼も、口も、一瞬蒼白いほのおを潜ったように、深怨無残の悪相が、メラメラと燃え上るのでした。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)