蓮池れんち)” の例文
火を点じて後、窓をひらきて屋外の蓮池れんちせなにし、涼を取りつつ机にむかいて、亡き母の供養のために法華経ほけきょうぞ写したる。そのかたわらに老媼ありて、しきりに針を運ばせつ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蓮池れんちを行き過ぎて、左へのぼる所は、夜はじめての宗助に取って、少し足元がなめらかに行かなかった。土の中に根を食っている石に、一二度下駄げたの台を引っ掛けた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
極楽も目前の世界の一層美麗なるもののごとく想像し、経文に極楽世界に蓮池れんちありと説けるがゆえに、実に吾人の現見する蓮池の、死後の世界にもまたあるべしと信じ
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
友人いうじん北洋ほくやう主人(蒲原郡見附の旧家、文をこのみ書をよくす)くだんの寺をたるはなしに、本堂間口まぐち十間、右に庫裏くり、左に八けんに五間の禅堂ぜんだうあり、本堂にいたるさかの左りに鐘楼しゆろうあり、禅堂のうしろに蓮池れんちあり。
蓮池れんちぎて、ひだりのぼところは、よるはじめての宗助そうすけつて、すこ足元あしもとなめらかにかなかつた。つちなかつてゐるいしに、一二下駄げただいけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
友人いうじん北洋ほくやう主人(蒲原郡見附の旧家、文をこのみ書をよくす)くだんの寺をたるはなしに、本堂間口まぐち十間、右に庫裏くり、左に八けんに五間の禅堂ぜんだうあり、本堂にいたるさかの左りに鐘楼しゆろうあり、禅堂のうしろに蓮池れんちあり。
蓮池れんち手前てまへからよこれる裏路うらみちもあるが、このはう凸凹とつあふおほくて、れない宗助そうすけにはちかくても不便ふべんだらうとふので、宜道ぎだうはわざ/\ひろはう案内あんないしたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どうでも、好いさ。——まあ、ちっと休もうか」と甲野さんは蓮池れんちに渡した石橋せっきょう欄干らんかんに尻をかける。欄干の腰には大きな三階松さんがいまつが三寸の厚さをかして水に臨んでいる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけまへに、宜道ぎだうれだつて、老師らうしもと一寸ちよつと暇乞いとまごひつた。老師らうし二人ふたり蓮池れんちうへの、えん勾欄こうらんいた座敷ざしきとほした。宜道ぎだうみづかつぎつて、ちやれてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
提唱のある場所は、やはり一窓庵から一町もへだたっていた。蓮池れんちの前を通り越して、それを左へ曲らずに真直まっすぐに突き当ると、屋根瓦やねがわらいかめしく重ねた高い軒が、松の間にあおがれた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は立つ前に、宜道と連れだって、老師のもとへちょっと暇乞いとまごいに行った。老師は二人を蓮池れんちの上の、縁に勾欄こうらんの着いた座敷に通した。宜道はみずから次の間に立って、茶を入れて出た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)