草臥くたぶ)” の例文
ふゆ夜長よながに、粉挽こなひうたの一つもうたつてやつて御覽ごらんなさい。うたきな石臼いしうす夢中むちうになつて、いくらいても草臥くたぶれるといふことをりません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それで両方ともに石を手に持って登れば少しも草臥くたぶれないが、これと反対に小石一つでも持って降ると、参詣はむだになり、神罰が必ずあるといいます。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
清「いや何うもこりゃはや、それを云おう/\と思ってたが、おさんあんま草臥くたぶれたので忘れてしまったが、いや眞達さんの事にいてはえらい事になりみした」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かなり歩き草臥くたぶれたので、みちばたに茶店ちやみせが一軒あつたのを仕合せに、皆はそこで一休みする事にした。
勘次かんじ草臥くたぶれやしないかといつてはおしなあしをさすつた。それでもおしな大儀相たいぎさう容子ようすかれおくしたこゝろにびり/\とひゞいて、とて午後ごゞまでは凝然ぢつとしてることが出來できなくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ああ草臥くたぶれた。恐ろしい糞袋くそぶくろの重たい仏様じゃね——。向うの酒屋で一杯やろうか」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
どれもどれも、ろくでなしが、得手に帆じゃ。船は走る、口はすべる、なぎはよし、大話しをし草臥くたぶれ、嘉吉めは胴のの横木を枕に、踏反返ふんぞりかえって、ぐうぐう高鼾たかいびきになったげにござります。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしや滅相めつさう草臥くたぶれた。今日の宿はまだかいなあ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
草臥くたぶれてしまった。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
直樹は中学に入ったばかりの青年で、折取った野の花を提げて、草臥くたぶれたような顔付をしながら屋外そとから帰って来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「その根際ねきだあ。帽子のふちも、ぐったり、と草臥くたぶれた形での、そこに、」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又慾と二人連れでました……おや婆様この前は御厄介になりみした、もうとても/\この山は下りは楽だが、登りと云うたら足も腰もめきり/\と致して、やアどうも草臥くたぶれました、とても/\
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ、御免こうむって」とた嫂が草臥くたぶれたらしく言った。「節ちゃん、お前も御免蒙って足でもお出し」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
峯「実はねえ草臥くたぶれました」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お蔭さまで、大楽しみを致しました」という女中までが草臥くたぶれたらしく帰って来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多勢おほぜい旅人たびびと腰掛こしかけて、めづらしさうにお蕎麥そばのおかはりをしてました。伯父をぢさんはとうさんたちにもやまのやうにりあげたお蕎麥そばをごりまして、草臥くたぶれてつたあしやすませてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こう三吉はさも草臥くたぶれているらしく答えて、それぎり黙って了った。身動きもせずにいると、自分で自分の呼吸を聞くことが出来る。彼は寝床の上に震えながら、じっと寝た振をしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いまだにとうさんはあの『みさやまたうげ』の山越やまごしをわすれません。草臥くたぶれたあしをひきずつてきまして、日暮方ひくれがたやますそはうにチラ/\チラ/\燈火あかりのつくのをのぞんだときうれしかつた心持こゝろもちをもわすれません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)