茫々ばう/\)” の例文
茫々ばう/\たる雪上何を目的めあてにしてかくはするぞとひしに、目あてとする事はしらず、たゞ心にこゝぞとおもふ所その坪にはづれし事なしといへり。
と、或朝あるあさはや非常ひじやう興奮こうふんした樣子やうすで、眞赤まつかかほをし、かみ茫々ばう/\として宿やどかへつてた。さうしてなに獨語ひとりごとしながら、室内しつないすみからすみへといそいであるく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
盲目らしく見せるために、頭を剃り落して一毛もありませんが、無精髯が反つて茫々ばう/\と伸びて、首筋には因果の麻繩を二た重に卷いてゐるのでした。
南に富士川は茫々ばう/\たる乾面上に、きりにて刻まれたるみぞとなり、一線の針をひらめかして落つるところは駿河の海、しろがね平らかに、浩蕩かうたうとして天といつく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
勘次かんじ自分じぶん土地とち比較ひかくして茫々ばう/\たるあたりの容子ようすまれた。さうして工夫等こうふら權柄けんぺいにこき使つかはれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
参禅して教を聴く積りで、来て見ると、掻集めた木葉このはを背負ひ乍らとぼ/\と谷間たにあひを帰つて来る人がある。散切頭ざんぎりあたまに、ひげ茫々ばう/\。それと見た白隠は切込んで行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
江戸えどのなごりも、東京とうきやうも、その大抵たいてい焦土せうどんぬ。茫々ばう/\たる燒野原やけのはらに、ながききすだくむしは、いかに、むしくであらうか。わたしはそれを、ひとくのさへはゞからるゝ。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこには假令たとへ安全とまでは行かなくとも、兎も角も私をかくまつて寢かせてくれた凹地が、まだそのまゝの姿で殘つてゐた。けれども草原は茫々ばう/\として、唯一面の平地に見えた。
其小なるや、管見の小世態を寫すに止まれど、其大なるや、能く造化を壺中こちゆうに縮めて、とこしなへに不言の救世主たらむ。其状猶邊なき蒼海さうかいのごとく、彌大にして彌茫々ばう/\たり。又猶底知らぬ湖のごとし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
眼下がんか茫々ばう/\たる大湖ありと、衆忽ち拍手はくしゆして帰途の方針ほうしんさだむるを得たるをよろこび、帰郷のちかきをしゆくす、すでに中して腹中ふくちうしきりに飢をうつたふ、されども一てきの水を得る能はず、いわんや飯をかしくにおいてをや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
茫々ばう/\たる雪上何を目的めあてにしてかくはするぞとひしに、目あてとする事はしらず、たゞ心にこゝぞとおもふ所その坪にはづれし事なしといへり。