“苦(に)” の例文
小女は苦(に)んがりともせずに跟いて來ました。二階の客は四組十人ばかり、二た間の隅々に陣取つて正月氣分もなく靜かに呑んで居ります。
そして彼の胸中には、事件を解決するたびに経験するあの苦(に)が酸(ず)っぱい悒鬱(ゆううつ)が、また例の調子で推(お)し騰(のぼ)ってくるのであった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
蒔(ま)くものは、穫(か)らざるべからず。今や徳川幕府も、二百年来の悪因果たる鎖国の苦(に)がき経験を嘗(な)めねばならぬ時とはなれり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
松島の苦(に)がり切つたる容子(ようす)に、山木は気の毒顔に口を開きつ「——実は、閣下、其れも矢張篠田の奸策で御座りまする」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
苦(に)がくて飲みにくいから、あの粉を飯粒に交えて幾個かの丸薬にして、それを三回分飲んだ。するとその翌日から発熱をしなかった。瘧は落ちたのである。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
是(こ)れにても同胞(はらから)かと思(おも)ふばかりの相違(さうゐ)なるに、怪(あや)しきは母君(はヽぎみ)の仕向(しむけ)にて、流石(さすが)かるがるしき下々(しも/″\)の目(め)に立(たち)し分(わ)け隔(へだ)ては無(な)けれども、同(おな)じ物言(ものい)ひの何處(どこ)やら苦(に)がく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
文章を書くのは僕にはいつも苦(に)が手だ。僕の一番善い友人たちが何年間も、僕からの手紙を一本も受け取らないでいる始末だ。僕は楽譜ばかり書いて暮らしている。
自分は今後此立場から大に厭人的の苦(に)がい憎悪を吐き散らして呉れようと決心した。
愛人と厭人 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
だが差当っての問題は、この言葉の描き出しているもう一面の苦(に)がい真理である。
翻訳の生理・心理 (新字新仮名) / 神西清(著)
その有るかと思えば無く、無いと思えば有る、といった風な、端睨をゆるさぬ、複雑かつ無数の面は、一斉に、これまた濁った低い空のほの明りを、交互に鈍く苦(に)がく、照りかえし合っている。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
苦(に)が笑いしながらとって返すと、血の海の断末魔の悲しい嘶(いなな)きをつづけながら、のたうち苦しんでいる愛馬の首を、わが子のようにしッかと抱きかかえて、声も絶え絶えと嘆き悲しんでいた若者へ
彼にはもう一人苦(に)が手(て)がある。それは民さんだ。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
苦(に)がい蕗のとうを喰うお前らの小さな胸にも
蕗のとうを摘む子供等 (新字新仮名) / 長沢佑(著)
舌には苦(に)がき紙筒(はやごう)を
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
小女は苦(に)んがりともせずに跟(つ)いて来ました。二階の客は四組十人ばかり、二た間の隅々に陣取って正月気分もなく静かに呑んでおります。
船長ノルマンは、苦(に)が虫(むし)をかみつぶしたようなかおをして、聞いていた。そして竹見の言葉がおわっても、そのまま無言で、竹見をにらみつけていた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
奥さんは苦(に)が笑いをしていた。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
英米(えいべい)から売りつけられた碌(ろく)に役にもたたない兵器に懲(こ)りた経験を思い出し、また重慶(じゅうけい)で、しばしば嘗(な)めた不渡手形的援醤宣言(ふわたりてがたてきえんしょうせんげん)の苦(に)が苦(に)がしさを想い出し
寅松の囁くのが聽えない筈はないのですが、當の七兵衞は苦(に)んがりともしません。
途端にその背後で例のエヘンという咳払いが聞えたので、署長は急に苦(に)が虫(むし)を噛みつぶしたような顔になった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうだよ。チーア卿といってな、チャーチル奴(め)の特使じゃよ。モヒ中毒を装った苦(に)が苦(に)がしい男じゃ」
だが、記者たちは、いずれも困憊し、そしていずれも苦(に)が蟲(むし)を噛みつぶしたような顔をしていた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三、丘丘十郎(著)
「殺したばっかりに、こんな一所懸命に器械の真似をせにゃならぬ。その上に苦(に)が手の警官までに顔を合わせねばならないじゃないか。何という損なことを私はやってしまったのだろう!」
殺人の涯 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頭が痛くなることは、頭の大きい醤主席にとっては、苦(に)が手であった。
「ふふん。中々口の減らない男だな」と検事は苦(に)が笑(わら)いをして、「大江山君、その婦人の屍体を早く法医学教室へ送って解剖に附してくれ給え。ことに胃の内容物を検査して貰うんだよ。いいかね」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
松吉は、苦(に)がりきって、ひとりでスタスタと歩きだした。
雷 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は苦(に)が笑いをして、金貨をポケットへしまいこんだ。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大隅は只苦(に)がりきって、ゴロリと畳の上に横になった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
課長は苦(に)が笑いをした。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)