花輪はなわ)” の例文
さむかぜなかを、この老人ろうじんあるいてきました。棺屋かんやまえにさしかかって、ふと、その店先みせさきにあったかんや、花輪はなわれると
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は先年、秋田県の花輪はなわ町の物屋ものやたのんで、絹地きぬじにこの紫根染しこんぞめをしてもらったが、なかなかゆかしい地色じいろができ、これを娘の羽織はおりに仕立てた。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ブウリーの弟子の中に花輪はなわトミという骨董商こっとうしょうの娘があった。その頃外人目当てに横浜に骨董の店を出すものが多かったが、花輪はその先駆者であった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
蔦のかけ橋をいっさんにわたって、咲耶子のすがたをあてに走ってきた少女のれは、みるまに近づいて、さしまねかれた笛の下へ、グルリと、花輪はなわのようにあつまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
越後えちご高田たかだだとか陸中の花輪はなわだとか、雪の深い町では好んで設けます。その冬の日、この小店を縫って、店を次から次へと見て歩くのは、旅する者の眼を忙しくさせます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
じゆんゆづつて、子爵夫人ししやくふじんをさきに、次々つき/″\に、——そのなかでいつちあとに線香せんかう手向たむけたが、手向たむけながらほとんゆきむろかとおもふ、しかかをりたかき、花輪はなわの、白薔薇しろばら白百合しろゆり大輪おほりん花弁はなびら透間すきま
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つねのごと花輪はなわ編みつつ君おもひ水にむかへば
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うみは、一つのおおきな、不思議ふしぎうるわしい花輪はなわであります。青年せいねんは、口笛くちぶえいて、刻々こくこく変化へんかしてゆく、自然しぜんまどわしい、うつくしい景色けしきとれていました。
希望 (新字新仮名) / 小川未明(著)
秋田の町では岩七厘いわしちりんが目にとまるが、これも町の産物ではなく北秋田郡阿仁あにの村で出来る。樺細工かばざいくも町で見かけるがこれは角館が本場である。紫根染しこんぞめはあるが、これは花輪はなわから来たのであろう。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
眉毛まゆげながく、睫毛まつげく、彼方むかふうなじに、満坐まんざきやくにして、せなはうは、花輪はなわへだてゝ、だれにもえない。——此方こなたなゝめくらゐな横顔よこがほで、鼻筋はなすぢがスツとして、微笑ほゝゑむだやうな白歯しらはえた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
藁沓では先を細かく丁寧に編んだのがあって、少しも荒々しい仕事ではありません。似ているようでいて隣の羽前や陸中のものと異ります。鹿角かづの郡の花輪はなわ附近も蓑が立派で形に力あるものを作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)