背筋せすじ)” の例文
背筋せすじの通った黄なひらが中へ中へと抱き合って、真中に大切なものを守護するごとく、こんもりと丸くなったのもある。松の鉢も見える。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸をあけると、大河は坐禅ざぜんでも組んでいたかのように、背筋せすじをのばしてあぐらをかいていた。かれの前の机の上には、何一つのっていなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
背筋せすじへ水をそそがれる思いで、言葉を交わしていた伝七は、ふと気付いたことがあるままに、早々にして席を立った。
砂塵しゃじんのようになった破片がおさまると、さっきまで見えていた大時計台が、どこへけし飛んだか姿を消していて、屋敷跡へ目を向けた者の背筋せすじを冷くした。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は猫の背筋せすじをなで、数々の愛称で呼び、威勢のいい舌の運動を観察し、ついでほろりとする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
スイッチを入れてみると、忽ち狂おしげな軍歌や興奮の声が轟々と室内をき乱した。彼は惘然もうぜんとして、息を潜め、それから氷のようなものが背筋せすじを貫いて走るのを感じた。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
すると、冷水れいすいびるように、悪寒おかん背筋せすじながれて、手足てあしまでぶるぶるとふるえました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
悪寒おかんが、ぞっと、背筋せすじをはしると、あたしはがくがく寒がった。雨のなかを通りぬけて来た時からの異状が、その時になって現われたのだが、すぐうしろにいた岡田八千代おかだやちよさんがびっくりして
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
芝草しばくさほゝを、背筋せすじを、はりのやうに
ただ肩から背筋せすじへ掛けて、全体に重苦しいような感じが新らしく加わった。御米は何でも精をつけなくては毒だという考から、一人で起きて遅い午飯ひるはんを軽く食べた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はなから羽織はおりッたくった伝吉でんきちは、背筋せすじが二すんがったなりにッかけると、もう一はなりもぎって、喧嘩犬けんかいぬのように、夢中むちゅう見世みせした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
まだ光枝が名乗りもしないのに、紳士の方では、彼女のことを先刻せんこく知っているといったような態度を示しているのだ。どことなく薄気味うすきみわるさが、彼女の背筋せすじいあがってくる。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆうべ吉原よしわらかれた捨鉢すてばちなのが、かえりの駄賃だちんに、朱羅宇しゅらう煙管きせる背筋せすじしのばせて、可愛かわいいおせんにやろうなんぞと、んだ親切しんせつなおわらぐさも、かずあるきゃくなかにもめずらしくなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
天井を見ると左右は低く中央が高く馬のたてがみのごときかたちをしてその一番高い背筋せすじを通して硝子ガラス張りの明り取りが着いている。このアチックにれて来る光線は皆頭の上から真直まっすぐ這入はいる。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さすがの私も、その話ごえを耳にしたときには、背筋せすじがすーっと、寒くなった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木賊葺とくさぶきの厚板が左右から内輪にうねって、だいなる両の翼を、けわしき一本の背筋せすじにあつめたる上に、今一つ小さき家根やねが小さき翼をして乗っかっている。風抜かざぬきか明り取りかと思われる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)