緩々ゆるゆる)” の例文
おどかして、此の室で寝ぬ様にさせ、爾して又緩々ゆるゆると来る積りです、血の落ちて居たのは必ず其の盗坊が何うかして怪我をしたのでしょう
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いつもおしゃべりの弁信がかえって沈黙して、いちいちお雪ちゃんの言うことに耳を傾けながら、緩々ゆるゆるとして歩いて行くのであります。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「せっかくお大事にしていたものを失って、お心淋しくおわそう。これはそれにも勝る書面かと思われる。あとで緩々ゆるゆるご覧下さい」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
志郎は淡白きさくな軍人気質かたぎ、信吾を除いては誰とも仲が好い。緩々ゆるゆる話をするなんかは大嫌ひで、毎日昌作と共に川にゆく、吉野とも親んだ。——
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
... めなければならん。国から返事が来た後に万事を相談しようが君もまだ病中ではあるし、気を付けて緩々ゆるゆる養生し給え」大原
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
長閑のどかに一服吸うて線香の煙るように緩々ゆるゆると煙りをいだし、思わず知らず太息ためいきいて、多分は良人うちの手に入るであろうが憎いのっそりめがむこうへまわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
緩々ゆるゆるとこっちへ走ってくる。それが実に奇妙な形だった。低いボデーの上に黒い西洋棺桶のようなものが載っている。そして運転しているのは女だった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
彼の歩みは私のようにせせこましく歩くことなしに緩々ゆるゆると鷹揚な運びである。それでいて私よりも迅い。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
ことに時刻を限ってある人と面会の約束をした刻限もせまっているから、これは追って改めて上がって緩々ゆるゆる拝見を致す事に願いましょうと逃げ出したくらいである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて二頭曳にとうびきの馬車のとどろきが聞えると思うと、その内に手綱たづなひかえさせて、緩々ゆるゆるお乗込になっている殿様と奥様、物慣ものなれない僕たちの眼にはよほど豪気ごうぎに見えたんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
そうして緩々ゆるゆるその間に、壊れた地下道を修繕するもよし、新に開鑿かいさくするもよし、手段はいくらもございます。その上で地下へ参ったなら、成功することと思われます
乗合は外に幇間たいこ末社まっしゃを加えて六人、船頭の直助なおすけに出来るだけ緩々ゆるゆるがせて、柳橋へ着いたのは亥刻よつ(十時)少し前、——船の中に持ち込んだ物では、どうも酒が飲めない
「いや難有い難有い。何にしてもこれだけ大きな空気孔があれば、余程長い間吾々は呼吸には困難しないから、この間に緩々ゆるゆる探検もしたり、飛行器の修繕も出来るというものだ。」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
これは皆村人にてしかも阿園の葬式の帰りなりき、佐太郎は再びがくとしてあたりのはぜの樹蔭に身を隠したり、群は何の気もつかず、サヤサヤと私語ささやきあいつ緩々ゆるゆるその前を通りすぎたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
しかる後に安全な場所で緩々ゆるゆるとこれを咀嚼し得るための装置である。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
この変遷があまりにも公々然と、何らの情実も秘密も無しに、ただ少しばかり緩々ゆるゆると、凡俗大衆の前において行われたために、甲から乙に話して聴かせるような必要が、少しも無かったからである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが済むと、緩々ゆるゆると起き上つて、こんどはほかの雄蕋がそれをやる。ちやうど王様の足許にいろんな家来が捧げ物を供へるやうな恰好だ。それが済んで了ふと、雄蕋の仕事はもう終つた事になる。
こう言って、夜道を緩々ゆるゆると東の方へ立去る両箇ふたりの旅人があるのを以て見れば、外は、やっぱり誂向あつらえむきのいい月夜に相違ない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こちらも緩々ゆるゆると軍備を固め、毛利方の小城枝城をぼつぼつ攻め落されて後、よい虚実を計って大軍を動かさるべきでないかと考えまするのでな
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
召上って下さい。そのつもりで私が今から支度を致します。もしや急に大原さんが御出発のようになると緩々ゆるゆる御飯を差上げる折がないかもしれません
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
群を離れて散っているのはもとより数え切れぬ。糸の音は三たび響く。なめらかなる坂を、護謨ゴムの輪が緩々ゆるゆる練り上る如く、低くきより自然に高き調子に移りてはたとやむ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見届けたからは秀子さん貴女は最う死骸も同様です、私に抵抗する事も出来ず、イイエ娘分として此の家に居る事さえ出来ますまい、何れ緩々ゆるゆると叔父にも道さんにも此の秘密を
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
粂吉も連れず一人でそんなところを歩いているとき、不図ふと綺麗な松落葉の積った箇所を見つけ出して緩々ゆるゆると腰かけてやすんで居るときなどその騒々しい気分がよく了解されてくる。
茸をたずねる (新字新仮名) / 飯田蛇笏(著)
貰うたので、これから緩々ゆるゆる屋敷へ帰って、その物を味わおうとこういうのじゃ。……ご免
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此の火の流れは、熔けた金属のやうな糊のやうなもので、緩々ゆるゆると流れて、その前にあるものをすべて焼き尽して了ふ。そこから逃げる事は出来るが、地に止まつてゐるものは何もかも失くなつて了ふ。
「いや、火急に召状を発せられては、かならず異変を生じましょう。まず両名を一郡の太守に転封し、後、緩々ゆるゆるお計り遊ばすがよいかと思います」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでちょっと注意したいのは決して若い者同士を交際させるという意味でありません。親たちが若い男と交際してみて緩々ゆるゆるその人を鑑別するのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けれども自分は話しの面倒になるのを恐れたから、素知そしらぬ顔をしてわざと緩々ゆるゆる歩いた。そうしてなるべくそうに見せるつもりで母を笑わせるような剽軽ひょうきんな事ばかり饒舌しゃべった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『神妙な仕方である。すぐ登城いたして、老中方へ披露ひろうに及び、お沙汰を仰ぐ事にするであろう。両所にはその間、緩々ゆるゆる当家に於いて休息あるがよい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし長く煮て緩々ゆるゆる味を出そうとするものは孰方どちらかというと時間の早過ぎるより遅過ぎた方が出来損じもすくないようですし、火は強過ぎるよりも弱過ぎた方が大丈夫です
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「永い間の事はまた緩々ゆるゆる御話しをするとして、じゃこの急場だけでも一つ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『各〻の今度の致し方、越中守も神妙に存ずる。もはや深更のこと、緩々ゆるゆる、手脚を伸べて休息するがよい。又、何ぞ相応の用事もあらば、隔意かくいなく、家来共へ申し出られい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何でもなるたけ大勢の候補者をあつめてなるたけ緩々ゆるゆる一粒択りにしたらきっと無類上等のお婿さんが出て来ますよ、アハハ私も阿父様にこの話しを申上げておきたいと思います。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
油にて揚げる時最初は火を弱くして緩々ゆるゆる揚げち火を強くしておろすべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
巻いてしまい「アハハあんまり長いから奥へ持って行って緩々ゆるゆる読まなくっては訳が分らん。お代ちゃん、胡桃餅くるみもちでもこしらえておあがりな」お代「胡桃餅なんぞ食いたくねい。満さんは帰えらないのう」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
水を引いてしまったらまたお湯をして緩々ゆるゆる湯煮て
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)