紙片かみぎれ)” の例文
「なに札は大丈夫だ。ほかの紙片かみぎれと違って活きてるから。こうやって、手でさわって見るとすぐ分るよ。隠袋ポケットの中で、ぴちぴちねてる」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、英軍の塹壕から、小石をくるんだ紙片かみぎれが一つ、独軍の塹壕にり込まれた。なかにはこんな文句があつた。
引き返した道々、ふつとこの長屋の角の家を見ると、名刺の裏か何かに「タルノ」と片仮名で書いた紙片かみぎれが貼つてあつたのを、お妙が見出したのであつた。
お蝶の訪れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
靴、靴下、手套てぶくろ、美しい上衣、それから見事な帽子、雨傘——すべて、上等な高価な品ばかりでした。その上、上衣のポケットには、こんなことを書いた紙片かみぎれが、ピンで留めてありました。
でまたその紙片かみぎれを取り出して、自分のようで他人ひとのような、長いようで短かいような、出るようで這入はいるようなという句をかずながめた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たゝみまであつくなつた座敷ざしき眞中まんなか胡坐あぐらいて、下女げぢよつて樟腦しやうなうを、ちひさな紙片かみぎれけては、醫者いしやれる散藥さんやくやうかたちたゝんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
不圖ふと小六ころくんなとひ御米およねけた。御米およね其時そのときたゝみうへ紙片かみぎれつて、のりよごれたいてゐたが、まつたおもひらないといふかほをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
畳まで熱くなった座敷の真中へ胡坐あぐらいて、下女の買って来た樟脳しょうのうを、小さな紙片かみぎれに取り分けては、医者でくれる散薬のような形に畳んだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただその分らないところに妙なおもむきがあるので、忘れないうちに、婆さんの云った通りを紙片かみぎれに書いて机の抽出ひきだしへ入れた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御米はその時畳の上の紙片かみぎれを取って、糊によごれた手を拭いていたが、全く思も寄らないという顔をした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お延が礼を云って書物をひざの上に置くと、叔父はまた片々かたかたの手に持った小さい紙片かみぎれを彼女の前に出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三沢は病院の二階に「あの女」の馴染客なじみきゃくがあって、それが「お前胃のため、わしゃ腸のため、共に苦しむ酒のため」という都々逸どどいつ紙片かみぎれへ書いて、あの女の所へ届けた上
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長さ一尺五寸幅一尺ほどな青表紙の手帳を約十冊ばかりならべて、先生はまがなすきがな、紙片かみぎれに書いた文句をこの青表紙の中へ書き込んでは、吝坊けちんぼうが穴のいたぜにためるように
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時向うの戸がいて、紙片かみぎれを持った書生が野中さんと宗助を手術室へ呼び入れた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其時そのときむかふのいて、紙片かみぎれつた書生しよせい野中のなかさんと宗助そうすけ手術室しゆじゆつしつれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は停車場の壁へ紙片かみぎれてがって、その上から鉛筆で母と兄あてで手紙を書いた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから仕方がないから台所へ行って紙片かみぎれへ飯粒をってごまかしてやったあね
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)