紙燭ししょく)” の例文
戦いを予感して、寺内ふかくひそんでいた僧は、やがて紙燭ししょくを持って出て来た。そして山門をあけるや否、どこかへ隠れてしまった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と幸三郎は沈着おちついた人ゆえ悠々ゆう/\と玄関の処へ来ますとステッキがあります。これをげ、片手に紙燭ししょくともしたのを持って
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昼だというのに部屋の隅に、幾本か紙燭ししょくともされている。話声を戸外へ洩らすまいと、雨戸を閉ざしているからである。壁には影法師が映っている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
差し出した紙燭ししょくの光りでちらりとその二人を見眺めた対馬守の声は、おどろきと意外におどって飛んだ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
風はそよ吹きてすでに死せるがごとく横たわる浪子の鬢髪びんぱつをそよがし、医はしきりに患者のおもてをうかがいつつ脈をとれば、こなたに立てる看護婦が手中の紙燭ししょくはたはたとゆらめいたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
紙燭ししょくをさし出して慾心の黒闇くらやみを破ったところは親父だけあったのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とうとう江戸町家の二階で紙燭ししょく、油火、蝋燭ろうそくを禁じたのです。
家の内にも明りがしているが武蔵の眼に見えたのは、その家の軒先に、誰か、紙燭ししょくを持って立ってでもいるらしいであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄砲、刀、槍、弓矢、……紙燭ししょくの光に照らされて、その一所はキラキラと輝き、一所は陰影かげをつけている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これが馬鹿のお母さんならすぐに起き上って紙燭ししょくでもともし、から/\方々を開け散かして、「此のは何うしたんだよ」なんて呶鳴って騒ぐんだが、沈着おちついた方だから其様そん蓮葉はすはな真似はしない
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、紙燭ししょくをかざして、中坪の濡れ縁を通りかけた人影は、なにか不審なと、すぐを感じていたらしく、ふと、たたずんだまま外を見ていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暗い土間から見えるものは、古びた板戸としみのある古襖と、鼡の走っている破損こわれた床と、それらをぼんやり照らしている、今にも消えそうな紙燭ししょくとであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お坊主が、網雪洞あみぼんぼりける、紙燭ししょくを広間へくばる。——だが、それすら今日に限って、なんとなく薄暗い気がしてならない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙燭ししょくが明るくともっている。その光に照らされて、そういう色々の商売道具が、あるいは光りあるいは煙り、あるいはかされている様が、凄味にも見えれば剽軽ひょうきんにも見える。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一瞬は、さすがびくとしたが、彼女の白い手の紙燭ししょくふるえもしていない。むしろ、きつ過ぎるほどなまなざしでさえあった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政子の印象もよかったし、駒を馴らしてみると、案外な逸足いっそくなので、頼朝は厩の物音を聞くと夜半よなかでも、紙燭ししょくをかかげて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、紙燭ししょくを持って、舎弟の万太郎が書院の床壁とこかべを茫然と眺めている。まったく、きもを奪われたていで、義通がうしろへ来たことにも気がつかない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門辺かどべにかがりをいている家もあるし、紙燭ししょくを持ってわざわざやがて通るであろう聟どのの到着を、婚家と共に、待ち久しげにたたずんでいる人々もある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「盗賊ならなお心配はいりません。欲しい物を持って行かせればいいのです。お母あさん、紙燭ししょくをともしてください。そして私の手に持たせてください」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ななめに、紙燭ししょくの黄色い明かりがながれた。その明かりに、いた僧形そうぎょうのかげを見ると、顔をだした公卿侍くげざむらい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が曳き込む駒のひづめが戛々かつかつと邸内へひびくと、待ちもうけていたらしく、紙燭ししょくを手にした侍たちが
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階下のかわやへ降りてゆく。——と、すぐつめの者が紙燭ししょくを掲げて板縁にひざまずいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、強い声を響かせて、紙燭ししょくを持った一僧が、内陣柱の蔭からこなたへ歩いて来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利三は紙燭ししょくを持って先に立つ。幾巡いくめぐりする廻廊の長い間行き合う人もない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村井春長軒父子おやこは、その側に、紙燭ししょくを持ってたたずんだ。もとより何の予感があったわけではないが、父子が今生の永別を一瞬惜しみあうために、その紙燭はしばし夜風に燃えているようだった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、かわやへ立った。そして紙燭ししょくを借り、用をすますと、ふと夜風恋しく、べつな廊下を曲がって行った。そしてなおまた、廊づたいに暗い一室の前まで来て、何かにごつんとつまずいたものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍女、老臣、若侍など六、七人の影が、紙燭ししょくのゆらぎをたもとかばいながら
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とたんに、紙燭ししょくが仆れて、暗黒の中に、白い糸のような、煙が曳いた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただ、まことの師をたずねて、まことの道を探して歩く。——それが生涯果てのない道であっても……」二人の若い弥陀みだの弟子たちは、じっと、そばにある紙燭ししょくの消えかかる灯を見つめていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何事かと、あわただしく駈けこんでみると、京普請きょうぶしんの小間どりな奥の一室、そこに、当夜の兇行を物語るすべてのものが、八弥と耀蔵のかざす紙燭ししょくのもとにまざまざと照らし出されているのだった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすかな紙燭ししょくをともして、身まわりの品をまとめた幾ツもの行李こうりを、侍に渡しては、そっと、馬の背に積むやら、数正の妻を始め、息女むすめや、侍女こしもとたちが、各〻、身がるな旅支度を急ぎおうていたり
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙燭ししょくを、そばにおいて、誰やら自分を抱きかかえているのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
油で拭き磨いたような太柱や板縁を、紙燭ししょくの光がてらてらと揺れうごいて来る。お目ざめ——とさとって、くりやのわきのお手水ちょうずへ足を急がせて来る小姓の森坊丸ぼうまる、魚住勝七、祖父江孫丸そふえまごまるなどであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙燭ししょくを持って、息子は、宵の湯殿の入口に、うずくまっていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙燭ししょくを持って、何気なく、お杉は奥から出てきた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがみ腰に信濃が持っている紙燭ししょくであった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僧が二人、左右から、紙燭ししょくを捧げる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)