精進しやうじん)” の例文
墓参りもし、法事も済み、わざとの振舞は叔母が手料理の精進しやうじん埒明らちあけて、さてやうや疲労つかれが出た頃は、叔父も叔母も安心の胸を撫下した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さうしてはじめから取捨しゆしや商量しやうりやうれないおろかなものゝ一徹いつてつ一圖いちづうらやんだ。もしくは信念しんねんあつ善男善女ぜんなんぜんによの、知慧ちゑわす思議しぎうかばぬ精進しやうじん程度ていど崇高すうかうあふいだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うちこそ、みねくもに、たにかすみに、とこしへふうぜられて、自分等じぶんら芸術げいじゆつかみ渇仰かつがうするものが、精進しやうじんわしつばさらないでは、そま山伏やまぶし分入わけいこと出来できぬであらう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
父はその時から命のをはるまで納豆を食はずにしまつただらうと僕はおもふ。父は食べものの精進しやうじんもした。しかしさういふ普通の精進の魚肉ぎよにくを食はぬほかに穀断ごくだち塩断しほだちなどもした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
兄の方は別に精進しやうじん料理なので、この晩餐の団欒まどゐには加はらなかつた。嬉しさうに、時々顔を出した。今度私が来た目的の半ばは、一層寂しくなつたこの兄を見舞ふことにもあつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
或東かぜの強い夜、(それは僕には善いしるしだつた。)僕は地下室を抜けて往来へ出、或老人を尋ねることにした。彼は或聖書会社の屋根裏にたつた一人小使ひをしながら、祈祷や読書に精進しやうじんしてゐた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
精進しやうじんの悪い僕も思はず靴音をぬすんで歩まねば成らなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
あかるくつめたい精進しやうじんのみちからかなしくつかれてゐて
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「有難うございます。私は私で精進しやうじんしますから。」
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
好むゆゑ精進しやうじんには甚だこまはて自然力も拔る樣に思ひしかば或日門弟中に向ひ扨々是迄は不思議ふしぎえんにて御世話に相成千萬かたじけなく猶又各々方の引止めに因て滯留たいりう致したなれ共某し國元にも道場だうぢやうこれある事なれば何時迄いつまでも長く逗留たうりうも相成難く且歸國がけ江戸表も見物致したく存ずれば名殘なごりつきねども最早御暇申さんと云に門人共も甚だ名殘なごり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
登山自動車の終点で駕籠かごに乗らうとした時に、男が来て北室院といふ宿坊しゆくばうを紹介してくれた。それから豪雨の降るなかを駕籠で登つて宿坊へ著いた。そこに二晩宿とまり、貧しい精進しやうじん料理を食つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
精進しやうじんのホツキがひですよ。それにジヤガいもたの。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『瀬川君は今夜から精進しやうじん料理さ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)