確執かくしつ)” の例文
この矛盾を根柢まで深く解剖かいぼうし、検覈けんかくすることを、そうしてそれが彼らの確執かくしつを最も早く解決するものなることを忘れていたのである。
したが、こゝな浮氣者うはきもの、ま、わしと一しょにやれ、仔細しさいあって助力ぢょりきせう、……この縁組えんぐみもと兩家りゃうけ確執かくしつ和睦わぼくへまいものでもない。
もとより我から求めたことではないが、小寺、黒田の両家は、ついに確執かくしつここにいたって、今はあきらかに敵味方として対立する日となった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ませのうちなる白菊、というのは真瀬ませいちという按摩の金貸しのお嬢さん。われら(吾良)というのは憶良おくらの弟子ぐらいにあたる貧乏な詩人。かくしつつ、というのは確執かくしつして。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
幸いの事には市之丞殿と芳江姫とが相思の間であるによってこのお二人の美しい恋を我らが手によって保育したならやがては双方のご両親の理由いわれない確執かくしつも解けるであろうと
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俊助は近藤こんどうと大井との間の確執かくしつが、同じく『城』同人どうじんと云う関係上、藤沢もその渦中へ捲きこんだのだろうと想像した。が、藤沢はそう思われる事を避けたいのか、いよいよ優しい声を出して
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのころ三浦みうらぞく小田原おだわら北條氏ほうじょうし確執かくしつをつづけていましたが、武運ぶうんつたなく、籠城ろうじょうねんのち荒次郎あらじろうをはじめ一ぞくほとんど全部ぜんぶしろまくら打死うちじにげたことはあまりにも名高なだか史的事蹟してきじせきであります。
あとけば、なんでも太平洋汽船会社たいへいやうきせんぐわいしや税関ぜいくわんだか桟橋会社さんばしぐわいしやだかとのあひだに、前々まへ/\からひどい確執かくしつがあつて、これためふねくのもおそくなれば、灯光あかりひとつない桟橋さんばしなかひとたせるにもいたつたのだといふ。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
今日の家士同士の喧嘩などは、ほんの一例でしかなく、その確執かくしつは、もっと遠い日からの、根元的なところにあった。
マンチュアにちっしてゐやるあひだに、わしがをり二人ふたり内祝言ないしうげん顛末もとすゑおほやけにし、兩家りゃうけ確執かくしつ調停てうていし、御領主ごりゃうしゅゆるしひ、やがてそなた呼返よびかへすことにせう
義貞と自分との、年来にわたる確執かくしつを述べ、つまるところ、このようなはめになったのも、ひとえに佞臣ねいしん讒口ざんこうによるもので、その張本は義貞であるとし
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父子の間に、かほどまでな確執かくしつは信じられない気もするが、少年武蔵の不逞ふてい面魂つらだましいは想い見るべきである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またたれがみても、尊氏のそれは、義貞との確執かくしつを口実に、ほこをかえて挑発している詭弁きべんのもののようだし、義貞がかぞえあげた尊氏の八逆のほうが、はるかにその論拠にも力があった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それゆえ、そんな確執かくしつのなかでは足利殿に内々の会見をうるなども容易でないし、よしお会いできても、事の不成功に終るのは見えすいている。「……なんぞ一色殿によい御工夫はないか」。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえ、決してご政道に触れることではありませぬ。かえって松平家と京極家との永い確執かくしつを解くよい折ともなりましょう。のうお通さま、わがまま者の姉が一生一度の頼みと思うても……」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもえば、百余年来、郷国を隣にし合い、代々確執かくしつをつづけ、和解また不和をつづけて来た新田と足利とは、ここにその総決算をつけるべき宿命を、長い月日にかけて作ってきたものかもしれない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)