眠入ねい)” の例文
浮舟の姫君はめんどうな性質の人であると聞いていた老尼の所でうつ伏しになっているのであったが、眠入ねいることなどはむろんできない。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ほどな「れぷろぼす」のたなごころが、よく眠入ねいつたわらんべをかいのせて、星空の下から悠々と下りて来たこともおぢやると申す。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それらの旅人たびびとは、ゆくさきいそいでいます。けれどつかれて、よく眠入ねいっているものもあります。うちには、子供こども父親ちちおやかえるのをっているのもあります。
王さまの感心された話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、パッパッと音を立てて、火口ひぐちから出渋でしぶる小さな焔の明滅を、やっと三つ数えたきりで、彼は眠入ねいってしまう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かような朝寝の習慣者にとっては、午前六時頃はまさに眠入ねいりばなである。最も深く熟睡しているときである。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ばあやのいて呉れたとこ這入はいって、酔っていたからでしょう、いつになくすぐに眠入ねいって了いました。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、自分を叱って、すぐ膝の前に、よく眠入ねいっている、斉彬の二男、寛之助の眼を、じっと眺めた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しばらく待ちたまえとてたちまちせぬ、さて出て来て暫く眼を閉じよという、教えのままに眠入ねいると思うほどに目を開けという、目を開けて見れば微妙めでたかざった門あり
眠られぬままに過去こしかた将来ゆくすえを思いめぐらせば回らすほど、尚お気がさえて眼も合わず、これではならぬと気を取直しきびしく両眼を閉じて眠入ねいッたふりをして見ても自らあざむくことも出来ず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
卑弥呼は今はただ反絵の眠入ねいるのを待っていた。反絵は行器ほかいの中から鹿の肉塊をつかみ出すと、それを両手で振り廻してうたを歌った。卑弥呼は彼の手をとって膝の上へ引き寄せた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
⦅いや、こいつは眠入ねいつてしまひさうだぞ!⦆さう言つて、彼はしやんと立ちあがると、やけに眼をこすつた。彼はあたりを見まはした。夜が彼の眼にひときは荘麗なものに映つた。
そのまま横になッたが,いつ眠ッたかそれも知らず心地こころもちよく眠入ねいッてしまッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
私はそれをはつきりした實際的な形で會得ゑとくした。私は滿足して眠入ねいつた。
夜半の一時頃に僕はすっかり疲れ切って眠入ねいってしまった。どのくらい眠入ったかおぼえはないが、不意にささやきのような声がきこえる。なかば起き上った時、隣室から明かに男の声がきこえた。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
私もまたそれなりぐっすりと眠入ねいったらしい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
眠れ、眠入ねいらで、日のまたもうまるる前に……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
眠入ねいっていなさるのか……。」といって、この寒さに、声も立てず母親の背にしがみ付いている乳飲児を見ていじらしく思った。が、たちまち怪しまれた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
左太郎は、母親に、乳房を、押しつけられて、暫く、乳を呑んでいたが、眼を閉じたかと思うと、もう眠入ねいるらしく、時々しか、乳房をふくんでいる口を動かさなくなった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
さむいから、くんですよ。いまやっと眠入ねいったのです。」と、おかあさんは、こたえました。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、思ったりしているうちに、眠入ねいった。月丸が、静かに身体を動かして
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
正二しょうじは、ながら、いろいろあった植木鉢うえきばちのことなどかんがえました。「うめか、それともまつかな。」そんなことを空想くうそうしているうちに、いつかまたぐっすりと眠入ねいってしまいました。
二百十日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おねえちゃん、おねえちゃん、たいへん。」と、まくらをならべているしょうちゃんが、夜中よなかにおねえさんをこしました。よく眠入ねいっていたおねえさんは、何事なにごとかとおもって、おどろいてをさまして
ねことおしるこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに、眠入ねいってしまったのです。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)