白絣しろがすり)” の例文
暑いある日の午後、白絣しろがすりはかまという清三の学校帰りの姿が羽生のひさしの長い町に見えた。今日月給が全部おりて、ふところの財布が重かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
大降おほぶり小降こぶり幾度いくどあめれ、おまけに地震ぢしんにあつた、裾短すそみじか白絣しろがすりあかくなるまで、苦労くらうによれ/\のかたちで、くろ信玄袋しんげんぶくろ緊乎しつかりと、巌丈がんぢやう蝙蝠傘かうもりがさ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
首里しゅりの仕事を筆頭に、八重山の白絣しろがすり宮古みやこ紺絣こんがすり、それに久米島くめじまの久米つむぎなど、実は百花の美を競う有様であります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
白絣しろがすりの着物が、汗の為に、水にでも漬けた様にビッショリ濡れていた。足は棒の様に無感覚になって、一寸した障礙物しょうがいぶつにでも、つまずいては倒れた。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
朱鞘しゅざやで、白絣しろがすりの着ながしだった。青額あおびたいに、講武所風の髷先まげさきが、散らばって、少し角ばったにがみのある顔へ、酒のいろを、ぱっと発している。三十前後の男である。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生は白絣しろがすりの上へ兵児帯へこおびを締めてから、眼鏡のくなったのに気が付いたと見えて、急にそこいらを探し始めた。私はすぐ腰掛こしかけの下へ首と手を突ッ込んで眼鏡を拾い出した。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、お昼すこし過ぎ、白絣しろがすりに夏羽織をお召しになって診察にいらした。れいの如く、ていねいに永い事、聴診や打診をなさって、それから私のほうに真正面に向き直り
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
土地の名物白絣しろがすりの上布に、お母さんのお古だという藍鼠あいねずみ緞子どんすの帯は大へん似合っていた。西日をよけた番神堂の裏に丁度腰掛茶屋に外の人も居ず、三人はゆっくり腰を掛けて海を眺めた。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
白絣しろがすりの寝巻をキチンと着ておられたようで御座いますが、私が覗きますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから白絣しろがすり帷子かたびらの一寸したのがあるけれど、あとはお浴衣が二枚ばかりある外に、今召してお出でになるたてじまの木綿のが一枚だけで、洗ひへの不断着が一枚もおありにならないのである。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
白絣しろがすりが二三寸ビリ/\と破け、勢ひでひぢをグツととがめたやうだつた。鷹雄はしかし、袖ごと傷を押へて、昂奮から足が自由にならぬ歩き付きで、砂地を荒々しく踏みながら門を出て行つてしまつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
紺絣こんがすりの兄と白絣しろがすりおととと二人並んで、じり/\と上から照り附ける暑い日影ひかげにも頓着とんぢやくせず、余念なく移り変つて行く川を眺めて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そのために東京から故郷くにに帰る途中だったのでありますが、汚れくさった白絣しろがすりを一枚きて、頭陀袋ずだぶくろのような革鞄かばん一つ掛けたのを、玄関さきで断られる処を、泊めてくれたのも
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白絣しろがすりを着てメリンスの帯をめた子は、それにも頓着せず、急いで川のしたの方にりて行つた。其処そこにはもう十六になる兄が先に行つて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
のために東京とうきやうから故郷くにかへ途中とちうだつたのでありますが、よごれくさつた白絣しろがすりを一まいきて、頭陀袋づだぶくろのやうな革鞄かばんひとけたのを、玄關げんくわんさきでことわられるところを、めてくれたのも
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
美穂子は白絣しろがすりを着ていた。帯は白茶と鶯茶うぐいすちゃの腹合わせをしていた。顔は少し肥えて、頬のあたりがふっくりと肉づいた。髪は例の庇髪ひさしがみって、白いリボンがよく似合った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ほころびて、たもとさきでやっとつながる、ぐたりと下へかさねた、どくどく重そうな白絣しろがすりの浴衣の溢出はみだす、汚れてえた綿入のだらけた袖口へ、右の手を、手首を曲げて、肩を落して突込つっこんだのは
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)