白眼にら)” の例文
が、なんと言ってもそこは諦めの早い江戸っ児たちのことだから、そういつまでも空を白眼にらんでべそをかいてばかりもいなかった。
唾液つばみ込み嚥み込み相手の顔を白眼にらみ付けたが、その瞬間に……ヤアーッ……と叫んで天井に飛び上りたくなった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
税関の役人は、貝殻のような眼をして私を白眼にらんだ。そうすることが彼の仕事なのだ。私は、用意の粉末微笑を取り出して、彼の上に振りかけた。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
富岡老人はそのまま三人の者の足音の聞こえなくなるまで対岸むこう白眼にらんでいたが、次第に眼を遠くの禿山はげやまに転じた、姫小松ひめこまつえた丘は静に日光を浴びている
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
否、誰何されたかもしれないが、追及すべく十分怪しいと白眼にらまれなかったのだ。この点が、そしてこの一点が、全リッパア事件の神秘の王冠といわれている。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
天使が玉座についても可いところに、悪魔が潜んで、見る者を脅し附けながら白眼にらんでいた。
何だか無性に人相のよくない人間のような気がしてならない。それが怪しげな眼つきをしてじろじろと白眼にらみでもすると厭である。また船が出た後であっては間抜けている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
或る人が「ナアニ青鞜社の人たちはいま危険思想だの何だのつてその筋から白眼にらまれてゐるのだから却つてホワイトキヤツプの連中に手伝ひしてこの際撲滅しやうなんて云ひますかも知れませんね」
見捨みすていでし女には持參金道具類とも返す事はならずなどと汝一人の取計とりはからひにて引止置ひきとめおき渡さざるは皆横領せんのたくみならん爰な大惡人めと白眼にらつめしが大岡殿へ向ひ某し儀當年より十八ヶ年以前劔術の師なり養父なりの後藤五左衞門と申すもの諸國修行しよこくしゆぎやうに出し所上州大間々にて病死仕り候みぎり早速同地へ罷りこし師父の追善つゐぜん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ごうを煮やした小太郎は舌打ちして行ってしまった。ただこれだけの事件ことではあるが、いそうで開けないのを不審と白眼にらめば臭くもある。
こうしてその船の徳規デサイプリンや乗組員の財布の大きさを白眼にらんでおいて、いわゆる「岸に無障害コウスト・イズ・クリア」と見ると、そこではじめて
否……の裸体美人も黄金の神殿型の時計も、この頭蓋骨の凹んだ眼に白眼にらまれて、初めて、これだけの深刻な気分を出し得たものと考うべきであろう。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四面楚歌そかのドイツのスパイだから、たちまち闇黒やみの中で処分されてしまうという段取りで、一度密偵団の上長じょうちょう白眼にらまれたが最後、どこにいても危険は同じことだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
おや、白眼にらんだね。おかしな顔だからおよしよ。忘れやしまいね、はばかりながらあたしゃ上総かずさのお鉄だ。仕事にぶきがあるもんかね。
番組を白眼にらんで賭け馬の選択にかかろう——と言ったって、ナオミ・グラハム夫人は兄が賭人ブッキイをしているのでいろいろ玄人くろうと予想テップが貰えるけれど
彼は肩の上に喰い込んでいる菊の鉢を、そのまま、眠っている少女の頭部あたまめがけて投げ付けたい衝動を、ジット我慢しながらモウ一度、寝台の中を白眼にらみ付けた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あそこに秘密の腹帯ベルトをしているのだな、と夫人はこっちからさり気なく白眼にらみをつけている。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
奎堂は無言で、長いこと凝然とその刀相を白眼にらんだ後、ただならぬ面持ちで近くの燭台の下へ急ぎ、灯にかざして改めてとみこうみする。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それを牛が、すこし離れてじいっと白眼にらんでる——何だ、同じ動物仲間のくせに人間に買収されて!——というように。
松倉十内は恨めしそうな白い眼で赤猪口兵衛を白眼にらみ付けた。下役の良助がおる手前、非人風情の差出口に追い詰められた見っともなさにジリジリして来たらしい。
「何だい、そんな顔してあたしを白眼にらんでさ。どうしようっての。あたしを殺す気なの?」
舞馬 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
決め込んでたなあ、足袋のこはぜと言い、それ、お前のぱっちの血形といい、佐平どん、あっしゃあ、お前のわざ白眼にらむがどうでえ?
それを牛が、すこし離れてじいっと白眼にらんでる——何だ、同じ動物のくせに人間とぐるになって!——というように。
けれどもその云い訳をするひまがもうないのだ。自分は誰に疑われてもちっとも怖いとは思わない。ただ狭山さんに白眼にらまれたら手も足も出ないようにされてしまう。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
普段から白眼にらんでいる市内外の悪の巣窟ロウクス・ネストへは猶予ゆうよなく警官隊が踏み込んだ。が、この、七月一日の夜中から翌二日、三日とかけて総動員で活躍したその筋の努力は、なんらむくいられなかった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「勘次。お前は立番だ。俺と松さんとでちょっくらお神を白眼にらんでくる。松さんがいりゃあ勘なんざかえって足手まとい、そこに立ってろ。」
ふだんから牛の眼はどこを見てるのか解らないもんだ。この必死の土壇場になっても、「赤い小山」は一たいどこを白眼にらんでるのか見当がつかない。
老船頭が櫓柄につかまって沖合の一点を白眼にらみつつ、悠々と大浪を乗り切る、その押す手引く手や腰構えの姿態美は、ソックリそのまま名人の仕カタ開キであるまいか。
きゃつがここへ出て来たところをみると、同類が他地ほかでなにかっているに相違ないと白眼にらんだのだ。思いあたるところがあるから、エリク・ヘンダスンは、その夜のうちにアフガニスタンへ飛ぶ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
(泣く。涙の眼で奎堂を白眼にらむ)しかるにこれを指して、口にするだも恐しい、君のお命を縮めまいらす刀相などとは——。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それよりは耳でも掴んで引っ張って来て、七つの鞄を見せながら、白眼にらみつけるほうが早い——ということになる。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そうなんで……しかし死骸は勿論、髪の毛一本でも外へ持ち出したらただはおかないぞッ……てね。そう云って船長おやじ白眼にらみ付けられた時にゃ、あっしゃゾッとしましたぜ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お手の筋でさあ。だがね、東京の真ん中でせえこう物騒な世の中になっちゃあ、大きな声じゃ言われもしねえが、ねえ、ご隠居、現内閣ももうあんまり長えこたあるめえと、こうあっしゃ白眼にらみますよ。いえ、まったく」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
(突然起ち上って、木華里ムカリ白眼にらみつける)こらっ! 妻の身を犠牲に、一命一族を助けようなどと思う札木合ジャムカではないぞ。
鄭吉炳 あいつ、俺たちに白眼にらまれてることを知らないわけじゃあるまい。承知の上で押し掛けて来たとすると、スパイめ、何か魂胆があるかもしれないぞ。
……そいつを見ると芬子さんイヨイヨ気の毒になって、天を白眼にらんで安禄山のかんにくんだね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
無形一刀、天下無二の使い手神保造酒先生は、紫いろの線香のけむりがユラユラとからむ首を白眼にらんでウウム! とうなった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
総がかりで星を白眼にらみ、暴風雨のなかで左舷ポウト右舷スタボウドと叫び交し、釜をき、機関を廻して来たのではないと
……しかるにだ……ここで吾輩の脳髄探偵小説は、こうした世界的の大勢を横眼に白眼にらんだ一人の青年名探偵、兼、古今未曾有式超特急の脳髄学大博士を飛び出させているのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
頼母は、呪いに縛られたよう……いっぱいにひらいた眼に障子の忌中札を白眼にらんで、まだ身うごきも出来ずにいる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
室内に山積し散乱している物品を白眼にらんで、過不足なくその全部を入れるに足る容積のトランクなり鞄なりを予め想定するには、実に専門的な眼力を必要とするのだが
あの蟹口運転手のメチャメチャになった妖怪じみた死骸を見た瞬間に……壊れた額から飛出とびだした二つの眼球めだまが私を白眼にらんでいるのに気付いた時に私はモウ一度気が遠くなりかけました。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかも、事毎に藤吉と張り合って、初手から藤吉が死亡ないものと白眼にらんでいる女隠居の行衛を、駒蔵はあくまでも生きていると定めてかかっているらしかった。
その途中モンテ・カアロにとまって、カフェ・ドュ・パリの前で私の妻のレンズをじろりと白眼にらんでそれでも彼女がすなっぷするまで周囲の人々との会話を中止していられた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
中野学士は思わず半歩ほど後へ退さがった。キッと身構えをしてその男を白眼にらんだ。折柄、遥か向うで開いた汽鑵場のボイラーの焚口が、向い合った二人の姿を切抜いたように照し出した。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれらは、武林と狂太郎の白眼にらみあいと、そして、新六が刀のあるほうへ行ったので、ぱっと逃げ散った。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ブリトン語で呪文を唱えながら白眼にらみつける、という始末ですから、とうとう村中の男が、誰も、私には、冗談は愚か、視線の一つも投げてくれないということになってしまいました。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そんな事が……とお白眼にらみなさるな。現にこの眼で見て来た事です。但し日本の事では御座らぬ。から天竺てんじく西洋あちらの事だよ。耳も無ければ眼玉も持たない。物も云わない木魚の話じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっとも、壁辰のほうは、ふだんから白眼にらみ一方で、あんまり愛嬌あいきょうのある笑いなんか持ち合わせていない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
物々しい甲冑かっちゅうを着たクリスチャン五世の騎馬像——一ばんには単にヘステンと呼ばれている——が滑稽なほどの武威をもってこの1928の向側のビルディングの窓を白眼にらんで、まわりに雑然と
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)