いのち)” の例文
こしもあらはのとねりこよ、草叢くさむらからへた汚れた夢のやうだ。いのちの無い影のなかに咲きたいといふ狂氣きちがひ百合ゆりのやうでもある。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そのほのかな温かみが——私自身のいのちの温かみのようなものが——子供の私にもなぜとも知れずにたのしかった。……
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
空間の中にいのちがあるのではなくして、いのちの中に空間が涵ることを意味する。物理的空間は生命の空間の影となる。
芸術の人間学的考察 (新字新仮名) / 中井正一(著)
をおもふたふと親心おやごゝろ! おやにとつてほどのものがありませうか。どもはいのち種子たねであり、どもはぐものであり、どもはてん使つかひであり。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
ほとんど芸術を持たなかった野蛮人が、たちまちにしていのちにあふれた芸術品の持ち主となったのだから。
偶像崇拝の心理 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私だっていつかは死ななければならないんだから、おそかれ早かれあのオーリャのように、魂や永遠のいのちのことを考えなければならないのね。オーリャは今では救われたのだわ。
ここに死がいのちに克つにあらず、いのちが死をするものにして、死は到底いのちにはむかふ力なし。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
涙は流れ、笑はこぼれ、いのちの同じりつつて、底知れぬ淵穴ふちあな共々とも/″\落込んで了ふのである。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
どれがどこからが罪のいのちのさせるわざだということをはっきり知ることができないのですけれど、自分の手で子供をそだて、周囲の子供たちをも公平な眼をもってみている人の親には
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
きれぎれにみてゐた君の詩がまとまつて一册となり、どつしりした重みで日光の中へでる時、まことのいのちの糧に餓ゑてゐる人達のよろこびはどんなであらうぞ! それが目に見えるやうだ。
東京に居ても、田舎に居ても、何処までもたびの人、宿れる人、見物人なのである。然しながら生年百に満たぬひといのちの六年は、決して短い月日では無い。儂は其六年を已に村に過して居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
石原に来りもだせばわがいのち石のうへ過ぎし雲のかげにひとし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あなたによつて私のいのちは複雑になり 豊富になります
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
その人のいのちが乾いてゆく匂ひであつた。
女中 (新字旧仮名) / 石川善助(著)
嗚呼ああ想界さうかいあらたなるいのちくる人もまた
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
激しい、いのちの戦場だ。
常世とこよいのち常世とこよのざざんざ、いたましい松の木よ、おまへの歎は甲斐が無い、いくらおまへがしにたくても、宇宙のおきてが許すまい、獨ぼつちで生きてゆくのさ、おまへをいやがる森のなか
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あたかも丁度私の幼年時代もまたその木と同じく、殆ど花らしいものを人目につかせずに、しかもこうやっていつか私にたのしいいのちの果実をはぐくんでいてくれているとでも云うように……
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
人のいのちも大いなる自然物である。よい種子たねをまいてよく育てたら、法則にしたがって時もたがえず美しく伸びてゆくはずである。しかし古往今来こおうこんらい、本当にわが子を立派に育てた親が幾人あるだろう。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
色と光と形、そうして私の心を充たす豊かな「いのち」。——またたとえば一人の青年が二人の老人を前に置いて、眼を光らせ、口のあたりの筋肉を痙攣させながら怒号する。老人はおどおどしている。
「自然」を深めよ (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
空間の中にいのちがあるのではなくして、生の中に空間があるのである。
さてもわれは今童兒どうじにあらず、いのちなかに在りて、事理分別を辨へ
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
みづからのいのちしまむ日を経つつ川上かはかみがはに月照りにけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
この愛の中で穀物の種子たねのやうな強きいのちをとりかへせ
時ぞともなくくらうなるいのちとぼそ、——
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
はるかにわれらのいのちめたたへる
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
彼女らのいのちのはげしかつた一瞬のいつまでも赫きを失せないでゐる事、常にわれわれの生はわれわれの運命より以上のものである事、——「風立ちぬ」以來私に課せられてゐる一つの主題の發展が
七つの手紙:或女友達に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
はじめてほかのいのちをも愛し重んずることができるものだと思います。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
傷ましい木よ、常世とこよいのち常世とこよのざざんざ。わたしの悲しい心のよろこび
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
草むらのかなしき花よわれ病みしいのちやしなふ山の草むら
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
いのちみて、神を仰ぎ見る時は、永生えいせいを生ずればなり。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
大地が地上に押しだしたいのちの子ども
私のいのちを根から見てくれるのは
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
かくもいのちはさびしいものか
それが親々のいのちを通して
今、生まれしみどり児 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
いのち。そして一切。
聖三稜玻璃:02 聖三稜玻璃 (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)