あたた)” の例文
寒中は夜間外出をするなとか、冷水浴もいいがストーブをいてへやあたたかにしてやらないと風邪かぜを引くとかいろいろの注意があるのさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にしろ附近ふきん医師いしらしいものはないところなので、漁師達りょうしたちってたかって、みずかせたり、焚火たきびあたためたり、いろいろつくしましたが
また曲った道をいくつも曲って、とうとう内へ帰りついて蒲団の上へ這い上った。燈炉とうろを燃やして室はあたためてある。湯婆たんぽも今取りかえたばかりだ。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
人工の火によるより、それができるあいだは、太陽によってあたたまる方がずっと愉快でもあり健康的でもあった。
彼はの前に坐りて居眠いねむりてやおらん、乞食せし時に比べて我家のうちの楽しさあたたかさに心け、思うこともなく燈火ともしびうち見やりてやおらん、わが帰るを待たで夕餉ゆうげおえしか
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
焚火たきびあたたまっていたペテロのそばへ、この家の下女の一人が来て、焚火のあかりに照らし出された彼の顔をしげしげと見つめていましたが、「汝もかのナザレ人イエスとともにいた」
猴は人が焚火した跡へ集り来って身をあたたむれど、火が消えればそのまま去り、すぐそばにある木を添える事を知らぬとあったを今に信ずる人も多いが、それは世間知らずの蒙昧な猴どもで
幸い旧語学校の同窓の川島浪速なにわがその頃警務学堂監督として北京に在任して声望隆々日の出の勢いであったので、久しぶりで訪問して旧情をあたためかたがた志望を打明けて相談したところが
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そのきずのある象牙ぞうげの足の下に身を倒して甘いほのおを胸のうちに受けようと思いながら、その胸はあたたまるかわりに冷え切って、くやみもだえや恥のために、身も世もあられぬおもいをしたものが幾人いくたりあった事やら。
け放ち微温湯ぬるまゆに一二分間ずつ何回にもかるようにした長湯をするときに動悸どうきがして湯気に上りそうになるので出来るだけ短時間にあたたまり大急ぎで体を洗わねばならぬかくのごときことを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
秋九月中旬というころ、一日自分がさるかばの林の中に座していたことがあッた。今朝から小雨が降りそそぎ、その晴れ間にはおりおり生まあたたかな日かげも射して、まことに気まぐれな空ら合い。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「今の音を。室をあたためる蒸気じゃあないか。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「寒いから部屋をあたためます」と云ったなり、上から煖炉の中を見下みおろした。火は薄い水飴みずあめの色に燃える。あいむらさきが折々は思い出したように交って煙突のうちのぼって行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身うちあたたかくなりまさりゆき、ひじたる衣のすそそでも乾きぬ。ああこの火、が燃やしつる火ぞ、がためにとて、たれが燃やしつるぞ。今や翁の心は感謝の情にみたされつ、老のまなこは涙ぐみたり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ストーブを真赤まっかに燃やして部屋を異常にあたためてあった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
文明の詩は金剛石ダイヤモンドより成る。むらさきより成る。薔薇ばらと、葡萄ぶどうの酒と、琥珀こはくさかずきより成る。冬は斑入ふいりの大理石を四角に組んで、うるしに似たる石炭に絹足袋きぬたびの底をあたためるところにある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)