きょ)” の例文
みて掃き寄せ、一きょの火としていてしまえばよろしいかと思います。——それよりも、将軍のなすべき急務はほかにありましょう
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすかなる墨痕ぼっこんのうちに、光明の一きょを点じ得て、点じ得たる道火どうかを解脱の方便門よりにないだして暗黒世界を遍照へんじょうせんがためである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(トルストイは先生へ手紙をよこしたよし。)論じ来り、論じ去って、先生の意気大いに昂るや、眼はいよいよきょの如く、顔はますます蝙蝠に似たり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
気懸きがかりなのはこればかり。若干いくらか、おあしにするだろう、と眼光きょのごとく、賭物かけものの天丼を照らした意気のさかんなるに似ず、いいかけて早や物思う。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだひげの生えない高等学校の生徒をそうして、「あなたはきっと晩年のギョオテのような爛熟らんじゅくした作をお出しになる」なんぞと云うのだが、この給仕頭のきょごとき眼光をもって見ても
それとても一瞬ひとしきりで、刀身はまたもや白く輝き、柄で蔽われていた茅野雄の額の、陰影かげさえ消えてきょのような眼が、眼前数間の彼方あなた群立むらだち、刀の切っ先を此方こなたへ差し向け、隙があったら一斉に寄せて
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
っと、きょのような眼で、信玄はにらみ下ろしている。実に長いここちのする間であった。——下野も黙然と信玄の顔を見ているらしかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
萌黄もえぎの光が、ぱらぱらとやみに散ると、きょのごとく輝く星が、人を乗せて外濠そとぼりを流れて来た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かなり距離をいてその向うには、まごかたなき佐々木小次郎が、物干竿の大剣を、傲然ごうぜん、頭上に振上げたまままなこきょのようにしているのだった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜はますますくらくなり候まま、きょの如き一双いっそうの眼、暗夜に水銀の光を放ちて、この北のかた三十間、小川のながれ一たびそそぎて、池となり候池のなかばに、五条の噴水、青竜の口よりほとばしり
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(そんな甘手あまてにかかるおれではない)と、満身の殺気をひとみにあつめて、きょのようににらまえたが、なんとはなく、体の筋を抜かれたように、眸にも
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして七日目の満願まんがん三更よなかだった。誰もが神気朦朧もうろうとしているうちに、宋江は夢ともうつつともなく一きょの白い光芒こうぼうが尾をひいて忠義堂のそとの地中にちるのを見た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
跳びかかって、董承とうじょうが大剣を加えると、曹操の首は、一きょの火の玉となって、宙へとび上がった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると趙雲はきょのごとき眼をして、張翼の卑怯を叱った。——知らずや汝、むかし長坂ちょうはんの戦に、曹軍八十万の兵を草芥そうかいのように蹴ちらし去ったのは誰であったか——と。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょのような眼で、くわっと睨まれた心地がしたのである。その眼すら仰げないで、国吉は
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭目の男は、さそくに、野太刀をひき抜いて、きょのごとき眼を、彼にそそいだ。小次郎は大いに怖れた。過って、武器を手に得たことを悔いるように、長柄を捨てて、逃げかけた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしていわれた通り、眼をきょのようにみはって、磯のほうへ向けていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、きょのごとき眼をくばりながら、八幡境内の近くを駆けめぐっていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かえって、全身に焔々えんえんの闘志を燃やし、きょの如き眼をらんと射向けて
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一丈八尺のほこを構えて、きょのごときまなこを、呂布に向けた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向き直ると、きょのような眼をして、大太刀を振りかぶった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょと見えた瞬間に灰となッて吹き飛んだ。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)