濃紫こむらさき)” の例文
波のようにゆるく起伏する大雪原をふち取りした、明るい白樺の疎林や、蒼黝あおぐろい針葉樹の列が、銀色の雪の上にクッキリと濃紫こむらさきの影をおとし
不思議なほど濃紫こむらさき晴上はれあがった大和の空、晩春四月の薄紅うすべにの華やかな絵のような太陽は、さながら陽気にふるえる様に暖かく黄味きみ光線ひかり注落そそぎおとす。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
こっちの部屋から流れこんで行く燈光ひかりで、その部屋はぼっと明るかったが、その底に濃紫こむらさき斑點しみかのように、お八重は突っ伏して泣いていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
香以の通った妓楼は初め吉原江戸町一丁目玉屋山三郎方で、後角町すみまち稲本楼である。玉屋には濃紫こむらさき、稲本には二世小稲がいた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
艶然ぱつとした中形單衣、夜目にも透いて見える襟脚の確乎くつきり白きに、烏羽玉色の黒髮を潰し島田に結んだ初初うひうひしさ、濃紫こむらさきの帶を太鼓に結んだ端が二寸許り
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
こちらの童女は濃紫こむらさきに撫子重ねの汗袗かざみなどでおおような好みである。双方とも相手に譲るものでないというふうに気どっているのがおもしろく見えた。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なるほど、くさをわけてみると、濃紫こむらさきちいさいうつくしいが、かさなりうようにしてなっていました。
少年と秋の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
海は、はろばろとはてしもなく、濃紫こむらさき色にひろがっていて、何処からか、海鳥の啼音なきねがきこえてくる。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
その間から濃紫こむらさき龍膽りんだうの花が一もと二もと咲いてゐるなどもよくこの頃の心持を語つてゐる。
しかし、それよりもつと、このアイヌの少年の目をひきつけたのは、青いコクワと、濃紫こむらさき山葡萄やまぶどうの実が、玉をつらねたやうに、ふさ/\とつて、おいで/\をしてゐることでした。
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
此処にあらかじめ遊蝶花、長命菊、金盞花きんせんくわ、縁日名代の豪のもの、白、紅、絞、濃紫こむらさき、今を盛に咲競ふ、中にも白き花紫雲英はなげんげ、一株方五尺にはびこり、葉の大なることたなそこの如く、茎の長きこと五寸
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
濃紫こむらさきの乘馬服を着、黒天鵞絨くろびろうどのアマゾン風の帽子を、頬に觸れ肩にたゞよふ房々とした捲毛の上に、形よく載せた彼女の姿よりも、もつと美しくみやびなものを、殆んど想像することが出來ない。
夫人特有の真白い素足すあしが、夫人の濃紫こむらさきすそから悠々ゆうゆうと現われました。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黒いばかり濃紫こむらさきの百合である。北の政所は
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晴れた Seineセエヌ濃紫こむらさき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
芳草ほうそうや黒き烏も濃紫こむらさき
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
濃紫こむらさきゆかりのをば
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
鳶尾草いちはつぐさ濃紫こむらさき
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
階の両側ふたがわのところどころには、黄羅紗きラシャにみどりと白との縁取ふちどりたる「リフレエ」を着て、濃紫こむらさきはかま穿いたる男、うなじかがめてまたたきもせず立ちたり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
真紅黄金こがね色、濃紫こむらさき落ちる太陽に照らされて、五彩に輝く雲の峰が、海のあなたにむら立ち昇り、その余光が林の木々天幕の布を血のような気味の悪い色に染め付けている。
そして、おんなげてんだという井戸いどのそばへいって、ふかく、ふかく、わびられますと、その井戸いどのそばには、濃紫こむらさきのふじのはなが、いまをさかりにみだれていたのであります。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
髪は総髪の大髻おおたぶさで、もとどりの紐は濃紫こむらさきであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)