漏斗じょうご)” の例文
せまい壜の口から、伸子のよく生きたいという希いで敏感になっている漏斗じょうごをこして、トロ、トロと濃い生活の感銘が蓄積されて来た。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
上に行くと漏斗じょうごがあってそれに受けてもらい、それから先に行くと、人間を溶かす機械があり、そこで錆を落し、いったん湯にとけて
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
サン・ドゥニ街からシャンヴルリー街へはいってゆくと、町幅がしだいに狭くなって長めの漏斗じょうごの中へでも進み入るがようだった。
漏斗じょうごへ逆に水を通すように、一道の寒む気が、ソーッと下腹の方からふきあげてきて、烈日に照らされ満身に汗を浮べながら、鳥肌になる。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
宇都宮うつのみやの町に挽物ひきもの師が、形のよい漏斗じょうご手轆轤てろくろにかけているのを見ました。売る先は静岡県の酒屋だということでありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
表現派の画に似た部屋の中に紅毛人の男女なんにょが二人テエブルを中に話している。不思議な光の落ちたテエブルの上には試験管や漏斗じょうご吹皮ふいごなど。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それでよろしい。ではやろう。」教師はバケツの中のものを、ズック管の端の漏斗じょうごに移して、それから変な螺旋らせんを使い食物を豚の胃に送る。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
流れの最も強い下流の方には方々直径七、八けんほどの漏斗じょうご形の大渦巻が出来ます。漁船などこれに巻込まれたら容易に出られなくなるそうです。
瀬戸内海の潮と潮流 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
図で見るように、ションの方は漏斗じょうごがたの受け器があって、これは牝牛めうしの場合に、適当な個所に於て、下から受けている。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
途で一人の老婆が麺麭の実の頭に穴を穿うがち、に似た麺麭の葉を漏斗じょうご代りに其処そこへ突込み、上からコプラの白い汁を絞って流し込んでいた。
桟橋の漏斗じょうごはその長いくちばしを、船のハッチの中へ差しのぞけた。それからは白い雪の代わりに黒い石炭が降って来た。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
大きなものの中に輪が幾つもできて漏斗じょうごみたようにだんだん深くなる。と同時に今まで気のつかなかった方面へだんだん発展して範囲が年々広くなる。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その傍らの壁の高所たかみに、銀製の漏斗じょうご型の管があって、そこから香水の霧水沫しぶきが、絶間なく部屋へ吹き出している。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一方の隅は鍛冶場かじばになっていて、巨大な漏斗じょうごをさかさまにしたような通気屋根の下にコークスの充満した炉の口が開き、奇妙な形の足踏みふいごが横わっている。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼の注意力はいやが上にもかき立てられ、耳がうつろになり、漏斗じょうごの口のように口をくかと思われた。が、それでも、音らしい音は、はいってこないのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
おんなは、むしろおとこはや漏斗じょうごものくちからいたので、青味あおみんだ、うつくしいしずくがまだのこっていて、かえってますにうつされたのだけそんをしたようなすらこったのです。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
海霧ガスドアの隙からもくもく入り込んで来て、二人の周囲ぐるりけむりのようになびきはじめた。が、それを聴くと、法水は突然坐り直したが、すると頭上の霧が、漏斗じょうごのように渦巻いて行くのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
平常はせんがしてありますが、雨が降って来ますと、亜鉛の漏斗じょうごの大きなのを挿入れます。夕立の激しく降る時にはひどい音がしますし、あられなどは撥返はねかえって、見ているのが面白いのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
しかしその飛沫の一滴さえもこの恐ろしい漏斗じょうごの口のなかへ落ちこまない。
見ると一匹の蒼蠅あおばいが蛛網に絡つて逃げようとしてもがいてゐました。その音は蠅が翅をバタ/\さしてゐる音だつたんです。すると、一匹の蜘蛛が絹の漏斗じょうごの底から走つて来てその蠅をつかみました。
十個の雄蕊ゆうずいを抱き合うようにして漏斗じょうごの鉢のように開いている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
さあ僕等はもう黒雲の中に突き入ってまわって馳けたねえ、水が丁度漏斗じょうごしりのようになって来るんだ。下から見たら本当にこわかったろう。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さて、それから、万寿丸は、高架桟橋の、石炭漏斗じょうごの下へ、そのハッチの口を持って行かねばならなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その渦巻に巻かれまいと水沫しぶきを立てて狂い廻りながらしかも水勢には争い難くやはり渦巻に巻かれたまま蒼黒い水穴——死の漏斗じょうごへ、一刻一刻近寄って行く
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
漏斗じょうごの内側の表面に、まるで魔法にでもかかったように、なかほどにかかっているように見え、その漏斗のまったくなめらかな面は、眼がくらむほどぐるぐるまわっていなかったなら、そしてまた
「また、がりました。」と、おとここたえながら、五しゃくのますにほとんど過不足かふそくなくたいらかに石油せきゆたして漏斗じょうごにわけました。そして、もう一ぱいれるために、また、杓子しゃくし石油せきゆれました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、白っちゃけた壁や、中央にある轆轤ろくろには「四谷怪談」に使う漏斗じょうごの幽霊衣や、仏壇返しや、提灯の仕掛などが立て掛けてあって、何もかも、陰惨な沼水そのもののような代物しろものばかりだった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
穴はあたかも漏斗じょうごのように円錐形を呈していて、落ち込む水がそこへはいる滝のようにすぐに落下せずにやはり漏斗形に廻り廻って静かに地底へくぐるのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桟橋の上は、夕張炭田から、地下の坑夫らの手によって、掘り出された石炭が、沢山の炭車に満載されて、船の上の漏斗じょうごへ来ては、それを吐き出して帰って行くのだった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
過不足かふそくなくたいらかにますにれて漏斗じょうごうつすと、それぎりでした。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
諸種もろもろの機械の運転は止まり香の鋭い香水の液も漏斗じょうごから一滴も出ないようになった。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうして其先が漏斗じょうご型をなし、矢張り黒く塗られていた。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)