洋盃コップ)” の例文
卓上に伏せてある洋盃コップを起して、葡萄酒ぶどうしゅぎながら、こんな事を云う女の素振りは、思ったよりもしとやかに打ちしおれて居た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そろそろ酔の廻った叔父は、火熱ほてった顔へ水分を供給する義務を感じた人のように、また洋盃コップを取り上げて麦酒ビールをぐいと飲んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
洋盃コップは床の上に転がっている。絨毯は踏み散らされてしわになっている。珈琲碗は飛び散っている。時計は九時五分を示している。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おお先生。……」と佐々記者はイキナリ立ってビールの泡だった洋盃コップを大隅学士の頭の上に載せていった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「どういたしまして、燃えるような緋縮緬ひぢりめん夜着よぎがありますよ」二人の洋盃コップにビールが無くなっているので、山西はかわりを注文して、それに口をけながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
といずれもその洞内に赴き、ありたけの蝋燭を点じてその中に坐り、各自にブランデーを注いだ洋盃コップを高く差し上げ、桂田博士の音頭で「日本帝国万歳※ 月世界探検隊万歳※」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「失敬な。」も口のうちで、島野は顔を見らるるときまり悪そうに四辺あたりをきょろきょろ。茶店のむすめは、目の前にほっかりと黒毛のこまが汗ばんで立ってるのをはばかって、洋盃コップもたらした。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取り出した物は大きなびん、彼はたもとからハンケチを出して罎の砂を払い、更に小な洋盃コップ様のものを出して、罎のせんぬくや、一盃いっぱい一盃、三四杯続けさまに飲んだが、罎を静かに下に置き
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ちらと私の顔を見ると千鳥足をしながら、懐かしがって片手を挙げた。が瞬間、私に向い合っている少年の姿に眼が留まると、洋盃コップを手にしたまま電撃を食らったように突っ立った。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と唸りながら慌てて洋盃コップを傾けると、立ちあがって壁の旗を取り下しにかかった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
梓さんは触れれば消えてしまうかと思われるような薄いヴェネチャの洋盃コップを持ち出して来てひとりひとりの手に持たせ、もったいぶったようすで紅玉ルビイのようなシャトオ・ディケムを注いで廻る。
松井は黙って洋盃コップを上げた。と村上も同時にぐっと一杯やった。
球突場の一隅 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
桂子が走るように行って、洋盃コップになみなみと水を汲んで来た。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高粱酒こうりょうしゅを出して洋盃コップぎながら、こっちが普通の方で、こっちが精製した方でと、またやりだしたから、いや御酒はたくさんですと断った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卓子テーブルの上の洋盃コップをじっと見た。そうしてやおら手に取り上げて眼の高さに差し上げてもう一度じっと透かして見た。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二人は左手のすみ食卓テーブルについてビールを注文すると、顔馴染かおなじみふとった給仕女が二つの洋盃コップを持って来た。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人は泡立つ洋盃コップを上げてカチンと打ちあわせ、不思議な縁で結ばれた共同戦線のため万歳を叫んだ。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人で洋盃コップを探したが一寸見付からなかった。婆さんはと聞くと、今御客さんの菓子を買いに行ったという答であった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
反射的に眼を閉じたから……ただ洋盃コップが絨氈の上に落ちる音を聞いた。何物かに当ってピンと割れる響を聞いた。さらさらという絹摺れの音を耳にした。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
くまで悠々ゆうゆうと落付きを見せて、卓子の方へ近づき、二人を背にして腰を下ろした。そして洋盃コップの中に酒をなみなみと注いで、そして静かに口のところへ持っていった。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
余は夜半よなかにしばしば看護婦から平野水を洋盃コップいで貰って、それをありがたそうに飲んだ当時をよく記憶している。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうですか——」と、君江はビール壜をとりあげて、帆村の洋盃コップに白い泡をぎこんだ。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひそかに次の間へ立って、いつものウィスキーを洋盃コップで傾けようかと思ったが、ついにその決心に堪えなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青谷技師は、側の棚から、大きい二重硝子ガラス洋盃コップを下ろした。それは一リットルぐらい入るように思われた。次に彼は、床の上から魔法壜をとりあげて、洋盃コップの上に口を傾けた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お兼さんは黒い盆の上にせた平野水ひらのすい洋盃コップを自分の前に置いて、「いかがでございますか」と聞いた。自分は「ありがとう」と答えて、盆を引き寄せようとした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ミシミシという音がして、液体空気が奔騰ほんとうした。その後で箸を持ち上げると、真赤な林檎が洋盃コップの底から現れたが、空中に出すと忽ち湿気を吸って、表面が真白な氷でおおわれた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小林は自分の前にある麦酒ビール洋盃コップして、ないしょのような小さい声で、隣りにいる真事にいた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
津田は一気に洋盃コップくちびるへあてがって、ぐっと麦酒ビールを飲み干した小林の様子を、少しあきれながら眺めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
筒袖つつそでの下女が、盆の上へ、麦酒ビールを一本、洋盃コップを二つ、玉子を四個、並べつくして持ってくる。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時柴野は隊から帰って来た身体を大きくして、長火鉢ながひばち猫板ねこいたの上にある洋盃コップから冷酒ひやざけをぐいぐい飲んだ。御縫さんは白い肌をあらわに、鏡台の前でびんでつけていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分が洋盃コップを取上げて咽喉のどうるおした時、お兼さんは帯の間から一枚の葉書を取り出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其所には代助の食後のうがいをする硝子ガラス洋盃コップがあった。中に水が二口ばかり残っていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡田はこう云って、自分の洋盃コップへ麦酒をゴボゴボといだ。もうよほど酔っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今頃卒業祝いか」と高柳君は手のついた洋盃コップを下へおろしてしまった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)