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松籟
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しょうらい
ふりがな文庫
“
松籟
(
しょうらい
)” の例文
まあ、茶でも一口すすろうではないか。明るい午後の日は竹林にはえ、泉水はうれしげな音をたて、
松籟
(
しょうらい
)
はわが
茶釜
(
ちゃがま
)
に聞こえている。
茶の本:04 茶の本
(新字新仮名)
/
岡倉天心
、
岡倉覚三
(著)
次は高く風を受けてもただ琴の
音
(
ね
)
に通うといわるるいわゆる
松風
(
まつかぜ
)
すなわちいわゆる
松籟
(
しょうらい
)
があるばかりで毫も動ぜぬその枝葉です。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
近所にも松の木がないわけではないが、しかし皆小さい庭木で、
松籟
(
しょうらい
)
の
爽
(
さわ
)
やかな響きを伝えるような
亭々
(
ていてい
)
たる大樹は、まずないと言ってよい。
松風の音
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
波の音も聞え、
松籟
(
しょうらい
)
の音もし、何処か山陰あたりの温泉地にでも旅したようなゆっくりと落ちついた、よい気持であった。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
何処かでは、
淙々
(
そうそう
)
と水のひびき、
松籟
(
しょうらい
)
の
奏
(
かな
)
でがしている。それに消されてか、いつまでも返辞はなかった。するうちに
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
▼ もっと見る
枕もとに
松籟
(
しょうらい
)
をきいて、しばらく理窟も学問もなくなった。が、ふと、
昼飯
(
ひる
)
の
膳
(
ぜん
)
に、
一銚子
(
ひとちょうし
)
添えさせるのを言忘れたのに心づいて、そこで
起上
(
たちあが
)
った。
みさごの鮨
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
多くは極めて
幽
(
かす
)
かな山風が松の梢を渡って行くために起る
松籟
(
しょうらい
)
が耳辺を掠めてゆくのである。そうしたことが知れるとその騒々しさは
忽
(
たちま
)
ち静寂な趣に変ってゆく。
茸をたずねる
(新字新仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
それを
厭
(
いと
)
うて山へ上ると
松籟
(
しょうらい
)
絶えず聞えるので「波の音聞かずがための山
籠
(
ごも
)
り、苦は色かへて松風の声」
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
水嵩
(
みずかさ
)
の増した
渓流
(
けいりゅう
)
のせせらぎ
松籟
(
しょうらい
)
の
響
(
ひび
)
き
東風
(
こち
)
の訪れ野山の
霞
(
かすみ
)
梅の
薫
(
かお
)
り花の雲さまざまな景色へ人を誘い
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
月は入江をてらしてあかるく、岸辺の松を吹く風は
松籟
(
しょうらい
)
を聞かせる。この秋の夜長、清らかな宵の景色はいったい何のためであろうか。自然のままのすがたである。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
R寺の境内がよほど高いことは、いま石畳を右にはづれて地続きの丘に出ようとする二人の足もとに、扇ヶ谷一帯の
松籟
(
しょうらい
)
が黒くひろがつてゐることでも解るのである。
水と砂
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
右は土手上の
松籟
(
しょうらい
)
も怪鳥の夜鳴きではないかと怪しまれるようなお
堀
(
ほり
)
を控えての寂しい通り——。
右門捕物帖:05 笛の秘密
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
夜っぴて
松籟
(
しょうらい
)
が耳についた。その音を聞きなれたと感ずるころは深い
睡
(
ねむ
)
りに
堕
(
お
)
ちていたのであろう。かすかに
頬
(
ほお
)
に来る冷たさを覚えて眼をあけると、あたりは明るい朝になっていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
今夜もわしの相手は無しか、
尻
(
しり
)
ごみしないでかかって来い、と
嗄
(
しゃが
)
れた声で言ってぎょろりとあたりを見廻せば、お宮の
松籟
(
しょうらい
)
も、しんと静まり、人々は無言で帰り仕度をはじめ、その時
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
裏の松林からときどき
松籟
(
しょうらい
)
が聞こえた。雑草の蔭に濃い紫菫が咲いていた。
牡丹
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
いつもなら
衾
(
ふすま
)
の襟をかき寄せ、息をひそめて聴きいるのだが、今宵はその寒ざむとした
松籟
(
しょうらい
)
の音までが、自分の幸福を
謳
(
うた
)
って呉れるように思いなされる、——そのときの心のあり方によって
菊屋敷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
庭は常に
陽
(
ひ
)
の目を見ず、
松籟
(
しょうらい
)
のしじまに沈み、
鴉
(
からす
)
と
梟
(
ふくろう
)
の巣の中であった。
石の思い
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
舟板に二、三枚重ねて敷いた座蒲團の上に
胡座
(
あぐら
)
して傍らの七輪に
沸
(
た
)
ぎる鉄瓶の
松籟
(
しょうらい
)
を聞くともなしに耳にしながら、
艫
(
ろ
)
(とも・へさき)にならんだ竿先に見入る雅境は昔から江戸ッ子が愛好してきた。
寒鮒
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
「光武帝がわが枕元に立たれて、招くかと思えば、
松籟
(
しょうらい
)
颯々
(
さっさつ
)
と、神亭の嶺に、虹のごとき光を
曳
(
ひ
)
いて見えなくなった」
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
赤い
火光
(
ほめき
)
が、彼の秀でた鼻のあたりをくつきりと隈どつた。火は投げ棄てられてからも、暫く蘗の中で燃えて、やがて尽きた。風がわたつて、五色山の底しれぬ
松籟
(
しょうらい
)
が四囲を揺すつた。
垂水
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
しかも風さえ加って
松籟
(
しょうらい
)
ものすごく、一行の者の
袖合羽
(
そでがっぱ
)
の
裾
(
すそ
)
吹きかえされて千切れんばかり、
這
(
は
)
うようにして
金谷
(
かなや
)
の宿にたどりつき、ここにて人数をあらため一行無事なるを喜び、さて
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
恐らくさういふものでもあつたらうか。もはや雨はやんでゐた。残された風のみが荒れ狂ひ、広く大きな
松籟
(
しょうらい
)
となつて彼の心になりひびいてゐた。自然の心を心にきいた切ない一夜であつたのである。
姦淫に寄す
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
特殊のメロディーを出すように茶釜の底に鉄片が並べてあるから。これを聞けば、雲に包まれた滝の響きか岩に砕くる遠海の音か竹林を払う雨風か、それともどこか遠き丘の上の
松籟
(
しょうらい
)
かとも思われる。
茶の本:04 茶の本
(新字新仮名)
/
岡倉天心
、
岡倉覚三
(著)
冷たい風が
松籟
(
しょうらい
)
の音といっしょに、激しく吹き込んで来た。
雨の山吹
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
風が強く、
松籟
(
しょうらい
)
が小田原の海辺を思い起させた。
日記:08 一九二二年(大正十一年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
城内七百の
強者
(
つわもの
)
ばらの耳へも
腸
(
はらわた
)
へも鳴って行ったとみえて、長亭軒の城、松尾山の
松籟
(
しょうらい
)
は、一瞬、しいんと
静寂
(
しじま
)
に冴えて、ただ琴の音と、琴の歌があるばかりだった。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ここは武蔵野のはずれ、深夜の
松籟
(
しょうらい
)
は、
浪
(
なみ
)
の響きに似ています。
風の便り
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
松籟
(
しょうらい
)
の中に、黙って坐りこんで降りて来たのであったが、無相無身になってみようと努力したその時のほうが、どうしても、死というものから離れられなくて、結局
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
うしろの松林から
松籟
(
しょうらい
)
が起った。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
にもかかわらず、
松籟
(
しょうらい
)
のほかは
寂
(
せき
)
として、一人の公卿も駈けつけては来なかったのである。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
初めにちょっと
会釈
(
えしゃく
)
しただけで、ついまだ一語も発せずに秀吉のわきにひたと坐っている一武人である。
面
(
おもて
)
は白く筋肉は
痩
(
や
)
せて、たとえば
松籟
(
しょうらい
)
に翼をやすめている
鷹
(
たか
)
の如く澄んだ
眸
(
ひとみ
)
をそなえている。
黒田如水
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“松籟”の意味
《名詞》
松の間を吹く風。また、それによる音。
(出典:Wiktionary)
松
常用漢字
小4
部首:⽊
8画
籟
漢検1級
部首:⽵
22画
“松籟”で始まる語句
松籟艸
松籟般若
松籟颯々