あた)” の例文
この家の先代が砲術の指南をした頃に用いた場所は、まだ耕地として残っていたが、その辺から小山の頂へかけて、夕日があたっていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
忍ヶ岡と太郎稲荷の森の梢には朝陽あさひが際立ツてあたツてる。入谷は尚ほ半分靄に包まれ、吉原田甫は一面の霜である。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しのぶおかと太郎稲荷いなりの森の梢には朝陽あさひが際立ッてあたッている。入谷いりやはなお半分もやに包まれ、吉原田甫たんぼは一面の霜である。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
『あなたの部屋の方は、まだそれでもうらやましい。是方こちらの窓から見てますと、あなたの部屋の窓には一日日があたっています』ッて。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しのぶおかと太郎稲荷の森の梢には朝陽あさひが際立ッてあたッている。入谷いりやはなお半分もやに包まれ、吉原田甫よしわらたんぼは一面の霜である。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最早もう山の上でもすっかり雪が溶けて、春らしい温暖あたたかな日の光が青いこけの生えた草屋根や、毎年大根を掛けて干す土壁のところにあたっていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大きな石の多い庭、横手に高く見える蔵の白壁、日のあたった傾斜の一部——この写真に入った光景ありさまだけでも、田園生活の静かさを思わせる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
休みの時間毎に出て見ると、校堂を囲繞とりまく草地の上には秋らしい日があたって来ている。足を投出す生徒がある。昼間鳴く虫の声も聞えて来る。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところどころに樹の葉の影の落ちている午後の日のあたった庭の内で、岸本は老婦人や細君や茶に招かれて来ている婦人の客などと一緒に成った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大塚さんは春らしい日のあたった庭土の上を歩き廻って、どうかすると彼女が子供のように快活であったことを思出した。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四人は熱い日のあたった赤土のがけに添うて、坂道を上った。高い松だの、アカシヤだのの蔭を落している石垣の側へ出た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこには岸本の足をとどめさせる河岸かしの眺めがあったばかりでなく、どうかすると雨が揚がって、対岸に見える工場の赤屋根には薄く日があたった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
種々いろいろ色彩いろに塗られた銀座通の高い建物の壁には温暖あたたかな日があたっていた。用達の為に歩き廻る途中、時々彼は往来で足を留めて、おせんのことを考えた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
歩いて歩いて、しまいにはどうにもこうにも前へ出なく成って了った足だ。日のあたった寝床の上に器械のように投出して、生きる望みもなく震えていた足だ……
足袋 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浅間の山のすそもすこしあらわれて来た。早く行く雲なぞが眼に入る。ところどころに濃い青空が見えて来る。そのうちに西の方は晴れて、ポッと日があたって来る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
捨吉は路傍みちばたにある石の一つに腰掛けて休んだ。そして周囲を見廻した。眼前めのまえには、唯一筋の道路みちと、正月らしくあたって来ている日の光とがあるばかりであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日のあたった往来には、お房の遊友達が立留って、ささやき合ったり、ながめたりしていた。黒いほろを掛けて静かに引いて来た車は、その娘達の見ている前で停った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
熊吉が来て、姉弟三人一緒に燈火あかりあたる食卓を囲んだ時になっても、おげんの昂奮はまだ続いていた。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とうさんがひとりでそこいらをあそまは時分じぶんにはおひなれられてよくよもぎみにつたこともあります。あたゝかいあたつた田圃たんぼそばで、よもぎむのはたのしみでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この人達の働くあたりから岡つづきに上って行くとこう平坦たいらな松林の中へ出た。刈草をしょった男が林の間の細道を帰って行った。日はれて、湿った草の上にあたっていた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三峯神社とした盗難除とうなんよけの御札を貼付はりつけた馬小屋や、はぎなぞを刈って乾してある母屋おもやの前に立って、日のあたった土壁の色なぞを見た時は、私は余程人里から離れた気がした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仕事はろくに手につかなかった。三吉が歩きに行って来た方から射し込む日は部屋の障子にあたった。河岸の白壁のところに見て来た光は、自分の部屋の黄ばんだ壁にもあった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
正太は家を出て、石段を下りた。朝日が、川の方から、家の前の石垣のところへあたっていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とうさんはめつたにそのへびませんでしたが、どうかするとあたつた土藏どざう石垣いしがきあひだ身體からだだけしまして、あたま尻尾しつぽかくしながら日向ひなたぼつこをしてるのをかけました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あの奥様の後をよく追って歩いて長いすそにまつわり戯れるような犬が庭にでも出て遊ぶ時と見えた。おげんは夢のようなあおざめた光のあたる硝子障子越しに、白い犬のすがたをありありと見た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)