掣肘せいちゅう)” の例文
すなわち人類の精神的生活が向上して無益なる浪費を自然に掣肘せいちゅうし、かつ科学の進歩が生活物資の生産能率を高むる事が必要であって
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
この旅行は、はじめっからしまいまですっかり自分のものとして経験し、どういう結果についても掣肘せいちゅうをうけたくない気持がした。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
国語そのものから来る致命的な掣肘せいちゅうによってその肝腎の詩の発達が阻害されている現状では、よろしく創作家が責を負うべき仕事であるはずだ。
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
ただそれとなく監視して、二人を一緒に置かないよう、二人を二人だけで話させないよう、掣肘せいちゅうするだけに止どめておいた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これからあすの朝までは、誰にも掣肘せいちゅうせられることの無い身の上だと感ずるのが、お玉のためにはず愉快でたまらない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
これは新太郎君の掣肘せいちゅうを受けていた寛一君にはかえって都合が好かった。店員になり切って勤め始めてからは仕事もはかどれば朋輩との親しみも増した。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
英国のこれを掣肘せいちゅうするがゆえなり。しかしてかの英国はなにをもってこれを掣肘するか。彼をして海上の王たらしむる海軍あるがゆえか。曰く否。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
永禄元年十月に武蔵守輝国が卒去そっきょしたので、河内介は父の家督を継いで武蔵守輝勝を名告り、今やその勃々ぼつ/\たる雄心に誰も掣肘せいちゅうを加える者がなく
これが鎌倉に在る足利千寿王の翼下に収められないうちに、まず両者間を断ちきッて、掣肘せいちゅうしておく必要がある。
君が偶然あの場所を通りかゝつたといふことによつて僕の行為に掣肘せいちゅうを加へる何の権力も生れはしない。
いづこへ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼らには鑑賞と製作との混雑があったのである。そうして鑑賞が製作を掣肘せいちゅうしたのである。製作は鑑賞に毒されたのである。日本の茶器は意識の傷に痛んでいる。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
むしろ船は便宜の道具であって、求むるところは、何人にも掣肘せいちゅうせられざる、無人の処女地なのです。
現代教育の本義に考えてお門違いな陸軍的精神の掣肘せいちゅうを受ける兵式体操を拒絶しないのでしょうか。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それが暗示となって青扇の心にいままで絶えず働きかけその行いを掣肘せいちゅうして来たのではあるまいか。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
在来の領家りょうけはその掣肘せいちゅうを受けたのみならず、収入をがれるがゆえに地頭との争訟は絶えなかった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
理兵衛の趣味としてこれ一つくらい続けさせねば、理兵衛は温順おとなしくしていないだろう。そういう三人の監督なので総領息子の清太郎の育て方にも、ある種の掣肘せいちゅうが加えられました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
内より表現を迫る精神的内容が特に力強くそれ自身を主張するとき、視覚作用は絶えずその根元によって掣肘せいちゅうせられる。見られた物象のある物は内心の律動に共鳴し、他の者は共鳴せぬ。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それに対して頼胤はなにをしたか、十二万石のあるじ、幕府の重職という地位と身分に制せられるとはいえ、事毎に兄の意に反する方向へあゆみ、兄の手足を掣肘せいちゅうするばかりではなかったか。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今の疑懼ぎくの心持は昔マドレエヌの家の小さい客間で、女主人の出て来るのを待ち受けた時と同じではないか。人間の記憶は全く意志の掣肘せいちゅうを受けずに古い閲歴を堅固に保存して置くものである。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
持ちつづけてございましょう! まして聖者星守護するからは、外界よりの掣肘せいちゅうを受けず、光を保つでございましょうよ!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大谷氏はもうゴルフに出掛けてしまったから、奥さんは掣肘せいちゅうされるところなく、軍師として附き添っていた。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
アレキサンダーの戦争、シイザーの戦争などは割合に政治の掣肘せいちゅうを受けないで決戦戦争が行なわれました。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
君が偶然あの場所を通りかかったということによって僕の行為に掣肘せいちゅうを加える何の権力も生れはしない。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お常の身の上はこれまでより楽にこそなっているが、少しも圧制だの窘迫きんぱくだの掣肘せいちゅうだのを受けてはいない。なるほど無縁坂と云うものが新に出来たには相違ない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
勝気な母の多計代のひそかな大望の偶像にされそうなところがあったり、中流家庭の娘として、伸子が望むだけどしどし人生に突入することを許さない掣肘せいちゅうがあった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ウィルソンの明哲を以てして、なおかつそれらの多数勢力者の利己心から掣肘せいちゅうされているのです。
非人道的な講和条件 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
行かんとすれば行き、止まらんとすれば止まる自由行動を、いまかつて何人のために掣肘せいちゅうされるほどの負目おいめを持っていない米友が、なぜか、このお角さんばっかりを怖れます。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また、僧団の武力にも対抗させて、内には、藤原氏を掣肘せいちゅうするにらみにつかった。——そして、退位の後も、政権をもたれ、いわゆる「院政」の端をここにひらいたものだった。
そこにそこばくの掣肘せいちゅうや影響を受けることはやはり免かれることが出来なかつた。
「細雪」回顧 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
汚穢おわいくつ穿いて太陽の下を往くが、ここには一杯の佳き葡萄酒と、高邁こうまいなる感情の昂揚こうようがある、見えずといえども桂冠は我らの額高く輝き、かたちなけれど綾羅りょうらの衣我らを飾る、我らに掣肘せいちゅうなく
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
掣肘せいちゅうを受けるお方ではなく、桑名侯松平越中守様とは、日頃から懇親気心も合い、暗々裡に通ずる点あるとのこと。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これに対し、火砲は小銃に比し攻撃を有利にするが、その威力も築城と防禦方法の進歩により掣肘せいちゅうされる。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
理由の第二は、今の多事の時にあたって、二、三の有力者に託するに藩の大事を以てし、これに掣肘せいちゅうを加うることなく、当主を輔佐して臨機の処置にでしむるを有利とするからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるに、何と努力しても、法の上に、法の掣肘せいちゅうをうけない、特殊なる人々があったのでは、所詮、千万ヵ条の法令を掲げても、諸民の上に、それは空文だということが相分りました。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諫止かんしするようでもあり、奨励するようでもある。しかし若旦那として使用人の掣肘せいちゅうを受ける必要はないと思った。もう決心をして機会を待っていた。この相場はかいだという直観が動いたのである。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
実現するために、私がなにかするなどということが考えられるかね、私は私だ、私は自分が是なりと信ずるように生きる、他人の希望に順応したり、掣肘せいちゅうされて生きるようなことは、私にはできない
いろいろな意味で親の掣肘せいちゅうの少い生活に入りたいと思って、職業のことも考えているなら、男の失業がこんなにも多いからといって、人間として伸びようとする女に就職しない方がよいということは
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「僕は自分の行動について、その時になって見んと分らんこと今から他人に約束したり、それに掣肘せいちゅうしられたりするのんイヤやのんです。まして夫婦のあいだのことはあくまで夫婦のあいだだけで解決つけます」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
他人から受ける圧迫に掣肘せいちゅうを加へやうと試みる。
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
最初の計画もくろみ掣肘せいちゅうし——自分自身掣肘し、ああでもあるまいこうでもあるまいかと、躊躇逡巡右顧左眄うこさべん、仏心を出している間に、彼奴らいわば長袖者流、結託なして余を弾劾だんがい
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今からさかのぼって考えて見れば、ゆうべは頭が鈍くなっていたので、左顧右眄さこゆうへんすることが少く、種々な思慮に掣肘せいちゅうせられずに、却って早くあんな決心に到着したかともすいせられるのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「宜いさ。酒丈けなら何等の掣肘せいちゅうも受けない」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……老中、若年寄、大目附、内閣は組織されていても、田沼一人に掣肘せいちゅうされて、政治の実は行われていない。……こういう時世には私のような男が、一人ぐらい出る必要がある。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「と云って旅人を掣肘せいちゅうして、旅をするなとは云えないではないか」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「一切彼らの自由意志に任せ、掣肘せいちゅうしないつもりでござる」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこまで掣肘せいちゅうをなさるのは、少しく横暴でござりますよ
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)