掛行燈かけあんどん)” の例文
新字:掛行灯
「……あの、こちらは、宿屋ではないんでしょうか。路地の入口に、はたごと書いた掛行燈かけあんどんが見えたので、はいって来たんですけれど」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋台の正面を横に見せた、両方の柱を白木綿で巻立てたは寂しいが、左右へ渡して紅金巾べにがなきんをひらりと釣った、下に横長な掛行燈かけあんどん
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等の貧乏時代は、茶屋の掛行燈かけあんどんなど引受け、がむしやらに雑用ぞうよう稼ぎをして、見られたざまではなかつたのを、この頃はすつかり高くとまり、方外の画料をむさぼる。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
向側にいきなうなぎやがあったが、そうなっては掛行燈かけあんどん風致ふうちもなにもなくなってしまった。この池に悲しい禿かむろが沈んだのだということが子供心を湿らせたに過ぎない。
毎年のならいで、ことしも稲荷いなり様の境内から町内の掛行燈かけあんどんの絵は、みんな街子まちこの父親がいたのです。
最初の悲哀 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
やむを得ず七兵衛は、用もありもしないしもちょうへ出て、ぶらりぶらりと軒並のきなみ掛行燈かけあんどんなどを見て行く、一廻りして中堂寺町へ出て、後ろを見ると小間物屋の姿は見えない。
裏道傳うらみちづた二町にちやう三町さんちやう町名ちやうめいなにれねどすこりし二階建にかいだて掛行燈かけあんどんひか朧々ろう/\としてぬしはありやなしや入口いりぐちならべし下駄げた二三足にさんぞく料理番れうりばん欠伸あくびもよすべき見世みせがゝりの割烹店かつぽうてんあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
数分の後、私は姉の背後うしろに身を隠すやうに寄り添ひながら伯父の家へ入つた。先斗町ぽんとちやう並びの広い玄関口の一方の柱には、斜に描いた瓢箪の下に旅館浪華亭と書いた瀟洒せうしや掛行燈かけあんどんが懸けてあつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
やがて二階屋が建続き、町幅が糸のよう、月の光をひさしおおうて、両側の暗い軒に、掛行燈かけあんどんまばらに白く、枯柳に星が乱れて、壁のあおいのが処々。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忍川しのぶがわという角の茶屋——外から見ると静かそうな二階があるので、三枚橋を渡ってそこへ入ろうとすると、辻に一本の枯柳があって、柳と細竹に風防かぜよけを廻し、掛行燈かけあんどん算木さんぎを書いた大道易者。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じやうな格子造りの二階家が南側に並んで、娼婦の名前を沢山書きつらねた掛行燈かけあんどんが戸毎に掛つてゐたが、既にその行燈に明るく灯が入つて、涼みがてらの嫖客の姿もぽつ/\見られる頃合だつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
つはくらい。……前途むかうさがりに、見込みこんで、勾配こうばいもつといちじるしい其處そこから、母屋おもや正面しやうめんひく縁側えんがはかべに、薄明うすあかりの掛行燈かけあんどんるばかり。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
路一筋白くして、掛行燈かけあんどんの更けたかなたこなた、杖をいた按摩も交って、ちらちらと人立ちする。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、さつと、みどりに、あゐかさね、群青ぐんじやうめて、むらさきつて、つい、掛行燈かけあんどんまへけた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)