扁平へんぺい)” の例文
普通には扁平へんぺい煎餅せんべいのようなものしかできなかったが、巧者な庫男くらおとこになると是で瓢箪ひょうたん松茸まつたけや、時としてはまた人形なども作り上げた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
板のように扁平へんぺいに削られたり、そうかと思うと粗造ではあるが、盆や椀や筒などの形が、つくり出されるのを見ることが出来よう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
饅頭まんじゅう根附といって、円形の扁平へんぺいなものもあり、また吸殻すいがらあけといって、字のように煙草の吸殻をあけるために作られたものもあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
三階は二階よりも、四階は三階よりも狭隘きょうあいになって、やっと一坪半ぐらいな、そして天井だけが妙に高い扁平へんぺいな感じのする一室に突き当った。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし近ごろは昔あったような高い籐椅子とういすはもうめったに見当たらない。みんな安楽椅子のような扁平へんぺいなのばかりである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人々は携帯に便なるため形を扁平へんぺいに作った。ひもを通すため耳をもつのを通則とする。かかるものは今から三、四百年前朝鮮において数多くできた。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小さい柿粒ほどの大きさで、頂点が扁平へんぺいで、果皮平滑、褐紫色かつししよくである。この果実を輪切りにすると、中にクリーム状の白い果肉のついた種が、塊をなしてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
脚の先には、足首と見えて、魚のひれのように、三角形になった扁平へんぺいなものがついていた。脚の二本は、前方左右に並んでおり、もう一本の脚は、うしろにあった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
「地」というも勿論当時の地文学ちもんがくしたがっての語であって、地球を意味せず、地を扁平へんぺいなものと見てのことばである。故に「地の基を我がえたりし時」というのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
歌麿の描ける女の常にはなはだしく長身なるは浮世絵を通覧するもののただちに心付く処なるべし。歌麿以前にありては春信湖龍斎春章しゅんしょうらいづれも扁平へんぺいにして丸顔の女を描きたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いったいあの動物は、からだが扁平へんぺいで、そうして年を経ると共に、頭が異様に大きくなります。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
石槍 此石器は長さ二三寸より五六寸に至り、扁平へんぺいにして紡錘形或は菱形ひしがたをなすものなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
犬はもう憤怒ふんぬに熱狂した、いましも赤はその扁平へんぺいな鼻を地上にたれておおかみのごとき両耳をきっと立てた、かれの醜悪しゅうあくなる面はますます獰猛どうもうを加えてその前肢まえあしを低くしりを高く
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
だが、こゝまで臆測が達したとき、プウル夫人のかくばつた扁平へんぺいな姿と、醜い、愛嬌のない、あらつぽい顏とが、實にはつきりと私の心の眼に浮かんで來たので、私はかう思つたのであつた。
丁度その時分向うの隅のたった一人の同乗者が、突然立上って、クッションの上に大きな黒繻子くろじゅす風呂敷ふろしきを広げ、窓に立てかけてあった、二尺に三尺程の、扁平へんぺいな荷物を、その中へ包み始めた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
扁平へんぺいな漁場では、銅色あかがねいろの壮烈な太股ふとまたが、林のように並んでいた。彼らは折からのかつおが着くと飛沫ひまつを上げて海の中へんだ。子供たちは砂浜で、ぶるぶるふるえる海月くらげつかんで投げつけ合った。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼女はそれに答えず、慣れた手つきで、四つに切った肉片を素早く小皿に取ると、鉄板に残った肉汁が赤褐色のあわを立ててジジジと焼きつくのを、扁平へんぺいのはがしで器用にすくい上げて皿に移し
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
川に浮んでいたときはあんなに小さく、扁平へんぺいに見えた木材が、陸にあげられてこんな風に目の前に並ぶと、向う側の男の胴体もかくれるほどおおきかった。木挽らはそれを挺子棒がんたでかつぎ起した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
すると与次郎はなんにも言わずにその扁平へんぺいな顔を前へ出して、右の人さし指の先で、自分の鼻の頭を押えてじっとしている。向こうに立っていた一人の学生が、この様子を見てにやにや笑い出した。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
厚さ一センチ程度で長さ二十センチもある扁平へんぺいな板切れのような、たとえば松樹の皮の鱗片りんぺんの大きいのといったような相貌そうぼうをした岩片も散在している。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
仮面めんは能面の重荷悪尉おもにあくじょうで、狭い額、つぶらの眼、扁平へんぺいの鼻、カッと開いた口、あごに垂らした白いひげ、眼下の頬に畳まれた蜒々うねうねとした縦横の皺——すべて陰深たる悪人の相で
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのとき、虚空こくうと大地とが、まるで扁平へんぺいな壁のように感じられた。空は湖のようだ。
三重宙返りの記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれの右に三じゃくばかりの扁平へんぺいな石があるのに気がつかなかった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
枕上まくらがみの小卓の上に大型の扁平へんぺいなピストルが斜めに横たわり、そのわきの水飲みコップの、底にも器壁にも、白い粉薬らしいものがべとべとに着いているのが目についた。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その壜は横に大きな口がついて、扁平へんぺいわせのふたがついていた。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
四角で扁平へんぺいな漆塗りの箱に入れたのを肩にかけて、「カエチョウ、カエチョウ」と呼び歩くのは、多くは男の子で、そうして大概きまってしりの切れた冷飯草履ひやめしぞうりをはいていたような気がする。
物売りの声 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)