御室おむろ)” の例文
嵯峨さが御室おむろ」で馴染なじみの「わたしゃ都の島原できさらぎという傾城けいせいでござんすわいな」の名文句から思い出の優婉ゆうえんな想像が全く破れる。
一体なにを彫るのかと云って雛形の手本をみせると、清吉は「嵯峨や御室おむろ」の光国と滝夜叉を彫ってくれと云う注文を出しました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宗近君は椅子いす横平おうへいな腰を据えてさっきから隣りのことを聴いている。御室おむろ御所ごしょ春寒はるさむに、めいをたまわる琵琶びわの風流は知るはずがない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行手には唐人とうじんかむりを見る様に一寸青黒いあたまの上の頭をかぶった愛宕山あたごやまが、此辺一帯の帝王がおして見下ろして居る。御室おむろでしばらく車を下りる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あれは横笛よこぶえとて近き頃御室おむろさとより曹司そうししに見えし者なれば、知る人なきもことわりにこそ、御身おんみは名を聞いて何にし給ふ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
皇后宮亮こうごうぐうのすけ経正は、幼い頃、仁和寺にんなじ御室おむろの許で、稚児姿で仕えたことがあった。慌しい都落ちにも経正は五、六騎の供を連れ仁和寺へお別れにやってきた。
ここは京都の郊外の、上嵯峨かみさがへ通う野路である。御室おむろ仁和寺にんなじは北に見え、妙心寺みょうしんじは東に見えている。野路を西へ辿ったならば、太秦うずまさの村へ行けるであろう。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
嵯峨さが嵐山あらしやま、平安神宮は駄目だめだとしても、せめて御室おむろの花にでも間に合ってくれないか知らん。………そう云えば去年、悦子が猩紅熱しょうこうねつかかったのも今月であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それはちょうど木の大きさの似ている京都御室おむろのサクラの下でその花を賞し楽しむと同趣である。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかれども春雨はるさめかさ、暮春に女、卯花うのはなに尼、五月雨さみだれに馬、紅葉もみじに滝、暮秋に牛、雪に燈火ともしびこがらしからす、名所には京、嵯峨さが御室おむろ、大原、比叡ひえい三井寺みいでら、瀬田、須磨、奈良、宇津
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
仁和寺にんなじの十四大廈たいかと、四十九院の堂塔伽藍どうとうがらん御室おむろから衣笠山きぬがさやまの峰や谷へかけて瑤珞ようらく青丹あおにの建築美をつらね、時の文化の力は市塵しじんを離れてまたひとつの聚楽じゅらくをふやしてゆくのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御室おむろの方の火口へでもお入りなさい
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
俳優はみんな十五、六の子供で、嵯峨さが御室おむろの花盛り……の光国と瀧夜叉たきやしゃと御注進の三人が引抜いてどんつくの踊りになるのであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうして若宮は髪を落し、法師の姿となって仁和寺にんなじ御室おむろの弟子になった。後に東寺とうじの一の長者安井宮の大僧正道尊といわれた人は、実にこの若宮であった。
らばいかなる身分みぶんの者ぞ、衞府附ゑふづきさむらひにてもあるか』。『いや、さるものには候はず、御所の曹司に横笛と申すもの、聞けば御室おむろわたりの郷家の娘なりとの事』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
皆で御室おむろへでも行って見たい気がしたのであったが、さすがにそう迄は云い出し得なかった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「弘法大師の十住心じゅうじゅうしんは華厳宗によって作ったものである。このことを御室おむろに申した処それは面白い議論である。早くもう少し研究して見るがよいと仰せられたから今考えている処だが」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あしたに稽古の窓にれば、垣をかすめて靡く霧は不斷の烟、ゆふべ鑽仰さんがうみねづれば、壁を漏れて照る月は常住じやうぢゆうともしび、晝は御室おむろ太秦うづまさ、梅津の邊を巡錫じゆんしやくして、夜に入れば
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かざり車や、御車みぐるまや、御室おむろあたりの夕暮に、花のかんばせみるたのしみも……
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ようや御室おむろの厚咲きの花に間に合ったような訳であった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
弥生やよい御室おむろの花ざかり
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)