弥勒みろく)” の例文
旧字:彌勒
それに引きかえて、弥勒みろくの人々にはだいぶ懇意になった。このころでは、どこのいえに行っても、先生先生と立てられぬところはない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「一軒には親分を入れて、一軒にはあっしが入って、あとの一軒には叔母さんを入れる。家賃なんか弥勒みろくの世までも呉れとは言わねえ」
その弥勒みろくの菩薩に参詣して、それからその横にある水牛面忿怒妙王すいぎゅうめんふんぬみょうおうの大堂と釈迦牟尼仏しゃかむにぶつの大堂にも参詣してある僧舎について宿りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ハヌマンの本尊帝釈を釈尊の後釜に坐るべき未来の仏弥勒みろくとしながら羅摩、私陀等の名を一切抹殺して単に大国王、その妃などといい居る。
◆備考 (A)如月寺の本尊弥勒みろく菩薩の座像を調査するに、頭大にして身小さく、形相怪異にして、後光も無く偏袒へんたんもせず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
巣鴨辺すがもへん弥勒みろくの出世を待っている、真宗大学しんしゅうだいがくの寄宿舎に似て、余り世帯気しょたいげがありそうもないところは、おおい胸襟きょうきんを開いてしかるべく、勝手に見て取った。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつて類のない誓願を抱いて、辺地異域にはべり、日夜万民を憐れみ、普賢ふげん菩薩の悲願に習い、生身のまま入定にゅうじょうした事を実証せんがため弥勒みろくの出現を待つものです
金堂の内部には本尊の薬師如来坐像ざぞうを中心に、弥勒みろく吉祥天きっしょうてん毘沙門びしゃもん、地蔵の仏体が並んでいるが、四とも平安時代の木造である。装飾らしいものは何もない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
西方の弥陀みだ浄土じょうどに押しせばめられて、弥勒みろくの天国はだんだんと高く遠のき、そのまぼろしはいよいよかすかになって、そこに往生おうじょうを期する者も今は至ってまれであるが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
膝を折って、床に坐り、あたかも現世の文殊もんじゅ弥勒みろくでも見たように、何度も礼拝して止まなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本来を云えば弥陀みだなり弥勒みろくなり釈迦しゃかなりを頼んで、何かムニャムニャを唱えて、そして自分一人極楽世界へ転居して涼しい顔をしようと云うのは、随分虫のいいことで
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるに彼らが、ほのかに微笑ほほえめる弥勒みろくあるいは観音の像に頼るべき力を感ずる際には、そこに人間的な愛の表情が永遠なるものの担い手として感ぜられているのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
何処どこか寂しい町の古道具屋の店に、たつた一幅売り残された、九霞山樵きうかさんせうの水墨山水——僕は時時退屈すると弥勒みろくの出世でも待つもののやうに、こんな空想にさへふける事がある。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
隙さえあれば、彼はこっそり瑠璃光丸の目を盗んで、大講堂の内陣にたゝずみながら、観世音や弥勒みろく菩薩の艷冶えんやな尊容に、夢見るような瞳を凝らしつゝ、茫然と物思いに耽って居た。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夢殿の救世観音くせかんのんにしても、中宮寺の弥勒みろくにしても、よほど「こなし」が良く出来ている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
あれは弥勒みろく出世しゆつせの暁に弘法大師が皆の手を執つてお迎へに出られる誓願があつたからださうだが、大師の考へでは高々たか/″\三十人位の積りらしかつたが今のやうにたんと納まつては一寸始末に困るだらう。
聖書だく子人の御親みおやの墓に伏して弥勒みろくの名をば夕に喚びぬ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夕凪の干潟まぶしみ生貝なまがひ弥勒みろくむく子の額髪ぬかがみにして
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
仏教ではそれを弥勒みろく菩薩の時代というのである。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
で、月の二十日には、どうせ狭い暑いうちに寝てるよりは学校の風通しのよい宿直室のほうがいいと思って、弥勒みろくへと帰って来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
絵巻物が独り手に弥勒みろく様のお像から脱け出して活躍したものか……というこの三つを前提にしてユックリと考えた方がいい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
推古天平室の中央にすわっている広隆寺の弥勒みろく*(釈迦しゃか?)塑像そぞうとを比べて見ればわかる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
仏智不思議の誓願を、聖徳皇しやうとくわうのめぐみにて、正定聚しやうじやうじゆに帰入して、補処ふしよ弥勒みろくのごとくなり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
是と弥勒みろく踊歌おどりうたとの関係は尋ねがたいが、少なくともかつて何らかの形をもって、このいわゆる路頭託宣が行われなかったならば、とうてい持ち運び得られまいと思う地域にまで
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「行宮の下の岩壁には、年月もわからぬほど古い弥勒みろく虚空蔵こくうぞうの二菩薩が彫ってある」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前項に書いたほかにまだまだ弥勒みろくと僭称した乱賊の記事がある。
弥勒みろくに俸給を取りに行った翌日あたりから、脚部きゃくぶ大腿部だいたいぶにかけておびただしく腫気が出た。足も今までの足とは思えぬほどに甲がふくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
弥勒みろくの出世以後の因縁までも同時に眼の前に結び止めて、輪廻りんね転生のあらたかさをさながらに拝ませているのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もう多くの時と紙とをついやしてしまって、最初の計画であった第四の点、かつて本誌に載せていただいた「弥勒みろくの船」の結論の部分を、ここに続けて行くことができなくなったのは
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
天平てんぴょうの東大寺は平重衡たいらのしげひらの兵火にかかって、けなげにも焼けて行った。大仏も観音も弥勒みろくも劫火に身を投じた。これが仏の運命というものではなかろうか。何を惜しむ必要があろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「なに犬肉だと。いや、よろしい。犬だからとていやしむことはない。わが輩の腹中はすなわち弥勒みろくだ、猿であろうが鹿であろうが一視平等。あに、差別すべけんやだ、けっこう。いけるじゃないか、おやじ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿体もったいのうは御座いましたが、御本尊の弥勒みろく様をゆすぶり立てて見ますると、成る程コトコトと音が致します。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
弥勒みろくに一度つれて行ってくれたまえ」
『田舎教師』について (新字新仮名) / 田山花袋(著)
補処ふしょ弥勒みろくの如くなり
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)