幼馴染おさななじみ)” の例文
申しますの——『あの人はわたしの幼馴染おさななじみよ——おまけにいちばんまじめなお友だちなのよ。それなのにわたしは? ……』
だからもし妻と妻の従弟いとことの間に、僕と妻との間よりもっと純粋な愛情があったら、僕はいさぎよ幼馴染おさななじみの彼等のために犠牲ぎせいになってやる考だった。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お谷さんは私の幼馴染おさななじみですが、四方屋の先の内儀おかみさんが嫁に行くときお里からついて行った人で、四方屋にだけでも二十年も奉公している忠義者です。
はじめから彼家あすこくと聞いたらるのじゃなかった——黙っておいでだから何にも知らずに悪い事をしたよ。さきじゃ幼馴染おさななじみだと思います、手毬唄を
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
千代子に対しては、僕と同じように、千代ちゃんという幼馴染おさななじみに用いる名を、自然に命ぜられたかのごとく使った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長吉は一度ひとたび別れたお糸とはたがいに異なるその境遇から日一日とその心までがとおざかって行って、折角の幼馴染おさななじみも遂にはあかの他人に等しいものになるであろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
熊浦氏は黒川博士とは同郷の幼馴染おさななじみだと聞いているが、現在では地位も、境遇も、性格もひどく違っている。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは帰朝してから、聞いたことですが、故郷鎌倉かまくらでの幼馴染おさななじみの少年少女も来ていてくれたそうです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
食堂車で二合びんを十六本平げた時で、新潟へ着いてからどういう順でこんな宿屋へ来てしまったのだろうといくら考えても分らなかった。翌日幼馴染おさななじみの婦人に会った。
流浪の追憶 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大阪美術倶楽部くらぶで催された故清元きよもと順三の追悼会ついたうゑに、家元延寿太夫えんじゆだいふが順三との幼馴染おさななじみおもひ出して、病後のやつれにもかゝはらず、遙々はる/″\下阪げはんして来たのは美しい情誼であつた。
それから、あの奇怪な風采ふうさいをした少年、少年といおうか、或いは若者といおうか、正直にして怒り易い、槍に妙を得た、あれの幼馴染おさななじみといった男は、どうしていますか。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは確かに、妾の記憶にある懐しい幼馴染おさななじみの顔だった。実になんという奇しき対面であろう。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さすがに幼馴染おさななじみの葉石の、今は昔互いにむつみ親しみつつ旦暮あけくれいつ訪われつ教えを受けし事さえ多かりしをおもい、また今の葉石とて妾に対してつゆ悪意のあるにあらざるを察しやりては
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
鶴見はそれをあたかも幼馴染おさななじみが齎らして来たもののように懐かしむのである。
親戚しんせきの、幼馴染おさななじみ一人ひとり若人わこうど……世間せけんによくあることでございますが、敦子あつこさまははやくからみぎ若人わこうどおもおもわれるなかになり、すえ夫婦めおとと、内々ないない二人ふたりあいだかた約束やくそくができていたのでございました。
お敏には幼馴染おさななじみで母親には姪に当る、ある病身な身なし児の娘が、お島婆さんの養女になったので、自然お敏の家とあの婆の家との間にも、親類らしい往来が始まったのです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの女と僕とは実は幼馴染おさななじみなんです。これだけいえば君には十分想像がつきましょう。幼馴染を忘れ兼ねた僕は彼女がほかの町で勤めに出てからもしばしばおう瀬を重ねていました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
伊勢の古市ふるいち以来、幼馴染おさななじみのお君が、今、九死の境にいる。駒井能登守にだまされて、身を誤った女であるけれども、こういう場合にこういわれてみれば、さすがに米友もひとごとではない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
娘であったお糸、幼馴染おさななじみの恋人のお糸はこの世にはもう生きていないのだ。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほぼその幼馴染おさななじみとでもいッつべき様子を知って、他人には、堅く口を封ずるだけ、お夏のために、天に代りて、大いに述懐せんとして、続けてなおおうとするのを、お夏はかろく手真似で留めた。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紙入の中には小遣いの紙幣しへいまで入れてくれましたから、ちょうど東両国に幼馴染おさななじみがあるのを幸、その泰さんと云うのを引張り出して、久しぶりに近所の与兵衛鮨へ、一杯やりに行ったのです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
既に里馴れた遊女が偶然幼馴染おさななじみの男にめぐり会うところを写した時には、商売人くろとでもう云う時には娘のようにもじもじするもので、これはこの道の経験に富んだ人達の皆承知しているところで
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)