常套じょうとう)” の例文
「これが人道を叫び紳士を標榜ひょうぼうする英国が、印度で常套じょうとう手段です。英国人にとっては印度人の命ほど安いものはありますまい」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「そんな常套じょうとう手段では、むしろ玄徳に利せられるおそれがあります。それがしの考えているのは、二競食きょうしょくの計という策略です」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羨しいことだ、というので、今から見れば覉旅の歌の常套じょうとう手段のようにも取れるが、当時の歌人にとっては常に実感であったのであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「花が散って雪のようだといったような常套じょうとうな描写を月並みという。」「秋風や白木の弓につる張らんといったような句はい句である。」
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自然にたいする人間の反抗の常套じょうとう語をもたらす代わりに、自然そのものの平和を、和解を、もたらしてやったからである。
『緋色の研究』のはじめの部分の推理方法などは、彼がその後常套じょうとう的に用いるもので、後になると、そのマンネリズムが少々うるさくなってくる。
ホオムズの探偵法 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
惺々せいせいは惺々を愛し、好漢は好漢を知るというのは小説の常套じょうとう文句だが、秀吉も一瞥いちべつの中の政宗を、くせ者ではあるが好い男だ、と思ったに疑無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仮令彼女の里方は廣介の常套じょうとう手段によって、懐柔かいじゅうせられたとしても、彼女自身ののない悲しみは、どう慰めようすべもないのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これはつうやの常套じょうとう手段である。彼女は何を尋ねても、素直すなおに教えたと云うことはない。必ず一度は厳格げんかくに「考えて御覧なさい」を繰り返すのである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蕉翁しょうおうの心構えは奇警にもはしらず、さりとてまた常套じょうとうにも堕せずして、必ず各自の実験の間から、直接に詩境を求めさせていたところに新鮮味があった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
常套じょうとうを嫌う君の趣味は、いつもながらの事だが、然し、隠伏奏楽所ヒッヅン・オーケストラの入口と云えば、下手の遙か外れじゃないか。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その戯曲も同様の戯曲なるにあらずや。ゆえに東洋改革史なるものは陳腐ちんぷ常套じょうとう実に読むに堪えざるものあるなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
べそを掻いて臀込しりごみをしながら、何の彼のと泣き言を並べて暫く皆をてこずらせたが、実はそれが常套じょうとう手段で、いつもそう云う風にぐずついている間に
わたしは母のそばへ寄って、身をかがめてその手にキスすると(これは会話を打切ろうと思う時の、わたしの常套じょうとう手段だった)、そのまま自分の部屋へもどった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
驟雨しゅうう雷鳴から事件の起ったのを見て、これまた作者常套じょうとうの筆法だと笑う人もあるだろうが、わたくしは之をおもんばかるがために、わざわざ事を他に設けることを欲しない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今の道徳からいったら人情本の常套じょうとうの団円たる妻妾の三曲合奏というような歓楽は顰蹙ひんしゅくすべき沙汰さたの限りだが、江戸時代には富豪の家庭の美くしい理想であったのだ。
これは詩の常套じょうとうの世界にすぎないのだろうと冷やかしたくなるのだが、然し、父の伝記を読むと、長男にだけはひどく心を労していたことが諸家によって語られている。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それがいわゆる八卦見はっけみ占い者の常套じょうとう手段といえば手段ですが、とにかくその前を通りかかると、突然、あなたには死相が浮かんでいるというようなことをいったのだそうで
常套じょうとうなものの面から突き出たものを手がかりにすることによってであって、また、こういった事件についての正しい質問は、『どんなことが起ったか?』ということよりも
保証と脅迫に押し出されるようにしぶしぶマドリッドをあとにパリーへ向う。脅迫は密偵部の常套じょうとう手段、命令に服従しなければ、同志が手をまわしてその地の官憲へ売り込む。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
これを理想という短い尺度から矛盾とるなら、この矛盾は双刃もろはの剣で、腐朽ふきゅう常套じょうとうを斬り、固着の錆苔を剥ぎます。未解決や未完成を恐れて何で解決や完成に旅立たれましょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これが千里眼者や山師的やましてき発明家の常套じょうとうの言葉である。誠にその通りである。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして、旧習慣、常套じょうとう、俗悪なる形式作法にとらわれなければならぬのか。
『小さな草と太陽』序 (新字新仮名) / 小川未明(著)
起居動作、用語の弁、いずれも彼らだけのいとも小さな世界にだけ喜ばれる常套じょうとう語をもって、十人が十人紋切り型の交語が飛ぶ。それは声色の声色であり、声帯模写のそのまた声帯模写である。
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
彼女はやぶから棒にこう云わなければならなかった。今日こんにちまで二人の間に何百遍なんびゃっぺんとなく取り換わされたこの常套じょうとうな言葉を使ったお延の声は、いつもと違っていた。表情にも特殊なところがあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
英国大使館が到頭爪牙そうがを現してきたのです。英国は太子殿下の日本御滞在を少しも喜んではいなかったのです。到頭常套じょうとうかん手段を用いて殿下を
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
常套じょうとう手段の如き感があるが、当時の人々は、いつもすうっとそういう云い方に運ばれて行ったものだろうから、吾々もそのつもりで味う方がいいだろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
盆廻しは旅芸人の常套じょうとうである。お客の方でも心得たもの。祝儀はなは見得坊な桟敷の上客がハズむものと知っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われわれは子供などに科学上の知識を教えている時にしばしば自分がなんの気もつかずに言っている常套じょうとうの事がらの奥の深みに隠れたあるものを指摘されて
案内者 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
茶味以外の味を細心に味いながら、然も御服合おふくあい結構の挨拶の常套じょうとうの讃辞まで呈して飲んで終った。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの手品師の常套じょうとう手段にすぎないのですけれど、それを行なう本人が手品師ではなくて、病的なきまじめな私の友だちなのですから、異常の感にうたれないではいられません。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
召使われている女童めのわらわなどを手馴てなずけてふみの取次をしてもらうのが常套じょうとう手段で、もちろんその辺にぬかりがあるのではなかったが、それも、今日までに二三度持たせてったのに
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『夏の夜の夢』と題して、あなたのメモリーにしまつて置くといゝですね。そしてあなたのこころが結婚生活の常套じょうとうに退屈したとき、とき/″\思ひ出してロマンチツクなそのメモリーを反芻はんすうしなさい。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「これがあなたにはお信じになれますか! 英政府の常套じょうとう手段です。ことごとく既定の計画だったのです! 卑怯ひきょうな! なんという卑怯至極なやり方でしょう!」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
また所謂いわゆる万葉的常套じょうとうを脱しているのも注意せらるべく、万葉末期の、次の時代への移行型のようなものかも知れぬが、そういう種類の一つとして私は愛惜あいせきしている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
これは攻城野戦ともにやる常套じょうとう的な正攻法で、兵家としては、まことに陳腐ちんぷな一攻手に過ぎない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といえるごとき、常套じょうとうの語なれども、また愛すし。古徳と同じゅうせんと欲するは、にして、淮楚わいそ浙東せっとうに往来せるも、修行のためなりしや游覧ゆうらんの為なりしや知る可からず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
常套じょうとう的な公式の手続きを運ばす一方、ひそかに朱同から、張文遠と閻婆えんばを裏からなだめさせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
賛之丞は、彼の常套じょうとう手段で、孝行で兄にも素直だったその妹を、家庭から走らした。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侵入者の常套じょうとう手段だ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)