帆木綿ほもめん)” の例文
船は川下から、一二そうずつ、引き潮の川を上って来る。大抵は伝馬てんま帆木綿ほもめんの天井を張って、そのまわりに紅白のだんだらの幕をさげている。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただきんさんが平たく煎餅せんべいのようになって寝ている。それから例の帆木綿ほもめんにくるまって、ぶら下がってる男もいる。しかし両方ともきわめて静かだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ボースンの荷物は、布団ふとん一枚と毛布一枚との包みが取りとめられた。そして、帆木綿ほもめんの袋の方は流れた。そして、一切は残るくまなく完全にぬれてしまった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
大祝賀會だいしゆくがくわいもようすとのことその仕度したく帆木綿ほもめんや、ほばしらふるいのや、倚子いすや、テーブルをかつして、大騷おほさわぎの最中さいちう
右左に帆木綿ほもめんのとばりあり、上下にすじがね引きて、それを帳の端の環にとおしてあけたてす。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
幾つかのかがりで、そこらは白昼のよう。前には小流れがあって、背後うしろに山を負うて帆木綿ほもめんの幕屋。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うつははたとへ、ふたなしの錻力ブリキで、石炭せきたんくささいが、車麩くるまぶたの三切みきれにして、「おいた。まだ、そつちにもか——そらた。」で、帆木綿ほもめんまくしたに、ごろ/\した連中れんぢうくばつたにせよ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほおの木歯きばの足駄をガラガラ。と学校の帰りにやあらん。年ごろはおのおの十五ばかりなる二三人の少年。一人は白き帆木綿ほもめんのかばんをこわきにかい込み。毛糸織りの大黒頭巾だいこくずきんいただきたる。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
石炭を積むこと終り、上下の甲板かふばんに張られし帆木綿ほもめんの幕取り去られさふらへば少しくむし暑さも直り、銭乞ふむれの船に乗りて楽の立つるなどもやや面白く思はれ申しさふらふ。六時にいかりは抜かれさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それが表面は泥で帆木綿ほもめんのように黒くなっているが、その鍵裂きの穴からは、雪の生地が梨の肌のように白く、下は解けて水になっている、その水の流れて行くところは、雪の小さい峡間はざまを開いて
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
すゝけたる帆木綿ほもめん
霜夜 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
そうかと思うと白の帆木綿ほもめんに黒いふちをとって胸の真中に花文字を、同じ色に縫いつけた洒落者しゃれものもある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
茶代ちゃだいの多少などは第二段の論にて、最大大切なるは、服の和洋なり。たびせんものは心得置くべきことなり。されどおごるは益なし、洋服にてだにあらば、帆木綿ほもめんにてもよからん。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「薄汚れた帆木綿ほもめんめいた破穴やれあなだらけの幕がいたて、」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南に廊下ありて、北面の壁は硝子ガラス大窓おおまどなかばを占められ、隣の間とのへだてには唯帆木綿ほもめんとばりあるのみ。頃はみな月半ばなれど、旅立ちし諸生多く、隣に人もあらず、わざ妨ぐべきうれいなきを喜びぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
向うの柱の中途から、窓の敷居へかけて、帆木綿ほもめんのようなものを白く渡して、その幅のなかに包まっていたから、何だか気味が悪かった。しかしよく見ると、白い中から黒いものがはすに出ている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)