容姿すがた)” の例文
「はあ、ひどい病気で……」私は、そういって、すぐ心の中ではあの繊細かぼそい彼女の美しく病み疲れた容姿すがたを思い描きながら
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今日、仏といえば、誰しも、すぐに観音さま、地蔵さま、阿弥陀さまといったような、いかにも微妙端厳みみょうたんごんな、やさしい容姿すがたの仏を思い起こします。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
としころ廿六七、まゆうるはしい口元くちもとやさしい丁度ちやうど天女てんによやう美人びじんわたくし一目ひとめて、この夫人ふじんその容姿すがたごとく、こゝろうるはしく、にも高貴けだか婦人ふじんおもつた。
しをれし今までの容姿すがた忽ち變り、きつかたちを改め、言葉さへ雄々をゝしく、『冷泉樣には、何の要事あれば夜半よはには來給ひし』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
二里あまりへだてたる村より十九歳のよめをむかへしに、容姿すがたにくからず生質うまれつき柔従やはらかにて、糸織いとはたわざにも怜利かしこければしうとしうとめ可愛かあいがり、夫婦ふうふの中もむつまし家内かない可祝めでたく春をむかへ
そして妻は、支那人の曲芸をやる者は、酢を飲んでゐること、平素酸性の多い食物をとつてゐると、たしかに身体が柔かになり、したがつて女の容姿すがたがよくなること。
泥鰌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
みだれた黒髪や、えりもとや、腰紐こしひもなどを直して、容姿すがたをつくろっていると、城太郎は舌うちして
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犬に追はれた家室さんは忽ち野干やかんとなつてまがきの上に乘つてゐる。紅染くれなゐぞめのを着て、裳裾もすそをひいて遊んでゐる妻の容姿すがたは、狐といへど窈窕ようちようとしてゐたので、夫は去りゆく妻を戀ひしたつて
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
華美に過ぎるというような感じは己にはなかった。己には只着物の美しい色が、奥さんの容姿すがたには好く調和しているが、どこやら世間並でない処があるというように思われたばかりであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その容姿すがたは似つかわしくて、何ともいえなかったが、また其の櫛の色を見るのも、そういう態度でなければならぬ。今これを掌へ取ってかえして見たらば何うか、色も何も有ったものではなかろう。
白い下地 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たぶん彼女のやうな容姿すがたであつたのだらう。
古い伝説 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
ああして小綺麗なメリンス友禅の掛蒲団の置炬燵にあたりながら絽刺しをしていた容姿すがたが、明瞭はっきりと眼の底にこびりついて、いつまでも離れない。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そして妻は、支那人の曲芸をやる者は、酢を飲んでゐること、平素酸性の多い食物をとつてゐると、たしかに身体が柔かになり、したがつて女の容姿すがたがよくなること。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「まア、あぶないところだった」お綱はほッとしたように、しげしげと娘の容姿すがたを見なおして
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは、去年の五月以来八、九カ月見なかった容姿すがたである。だんだん近くなってくると、向うでもこちらを認めたと思われて、にっこりしている。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そこにたたずんだ容姿すがたをちらと見ると、蒼ざめた頬のあたりに銀杏返いちょうがえしのびんの毛が悩ましくれかかって、赤く泣いた眼がしおしおとしてうるんでいる。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
隣家となりにいてそれとなく気のついている、女の平常ふだんのことをうわさしていたが、今じっと女の容姿すがたを打ちまもりながら心の中で、なるほど主人のいうとおり
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しっとりとした容姿すがたをして、なりもつくろわず、不断着の茶っぽい、だんだらの銘仙めいせん格子縞こうしじま袷衣あわせを着て、形のくずれた銀杏返いちょうがえしのびんのほつれ毛をで付けもせず
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
明るい電燈の光をあびている彼女の容姿すがた水際立みずぎわだって、見ていればいるほど綺麗である。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)