なま)” の例文
燈の消えた闇の中で、隣にむなしく延べてある妻のなまめかしい夜具を見まもりながら、浅二郎はまじまじといつまでも眠れずにいた。
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
銀鈴のようななまめかしい声を出したもんだ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぷんぷんなまめいて滑りゆくには
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
阿芙蓉あふようなまめけるその匂ひ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「御不満なのはあなたです」ゆきをは悩ましげに溜息ためいきをした、なまめかしいと云ってもいいほど悩ましげな、訴えるような溜息であった
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幽霊でも酔うものだろうか、お染のあおい顔がいつかぽっと赤くなり、眼にうるみが出て、身のこなしがますますなまめかしくなってきた。
ゆうれい貸屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
眉をしかめたり眼まぜをしたり、びたなまめかしい微笑をみせたりするが、それでもなお人間ばなれのした感じは消えなかった。
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの夜もずいぶんなまめかしかったが、いまこの日中の往来に立って、こちらへ笑いかける眼もとも、あでやかに嬌めいてみえた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あそこで」あやはなまめかしい表情で、いま出て来た雑木林のほうへ眼をやった、「あそこであたしを抱いて、可愛がってくれたら云うわ」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女を助け出したとき、あのかよが人々の面前で、万三郎にひどくれ狎れしくした。思いきり当てつけがましく、なまめいたことを云った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かよは手燭を下に置き、そこへしゃがんで、わざと甘えたつくり声で云った。彼女が跼むと、なまめかしい香料の匂いが強くした。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
勘兵衛に強いられて二三杯めたお笛は、眼蓋まぶたのあたりをほんのり染め、どことなく体つきになまめかしさが匂っていた。
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
着物をぬぎ、寝衣をひっかけたところで、なめらかにひき緊った小さな肩と、くびれた裸の脇腹とが、おどろくほど新鮮になまめかしく感じられた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十七か八くらいの、きりょうのいい女たちで、髪かたちも着ている物も、立ち居、身ぶりや言葉つきも、まるでいろまちの者のようになまめいていた。
ほのかな行燈の光りの中で、彼女の胸のなめらかな白さと、乳暈にゅううん鴇色ときいろをした豊かな張りきった乳房とが、どきっとするほどなまめかしく色めいてみえた。
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
着物も屋敷にいるときとは違って、色彩のなまめかしい派手な柄だし、町ふうに結んだ帯もひどくいろめいてみえた。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
姿は御殿ふうだが、新八を見るまなざしや、その言葉つきは、三年まえに別れたときと違って、それ以前の、なまめかしく色めいたようすに返っていた。
年は四十になるし、縹緻きりょうもよくはないが、表情の多い眼つきや、やわらかな身ごなしなどで、ふと濃艶のうえんなまめかしさをあらわす若さと、賢さをもっていた。
膚は脂肪がのっていよいよつややかに、しっとりと軟らかい弾力を、帯びてきた。自信とおちつきを加えた眸子ひとみは、ときに驚くほどなまめかしい動きかたをする。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女の顔には、虚脱とすてばちの色が、混りあってあらわれ、それまでの単純な表情とはまるでべつな、一種のなまめかしさ、といったふうなものが感じられた。
机の上にはやりかけの写本がある、擬古体のごくなまめかしい戯作で、室町時代の豪奢ごうしゃな貴族生活、特に銀閣寺将軍の情事に耽溺たんできするありさまが主題になっていた。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
紫色の地に菊の模様を散らした小袖が、色の白い顔によく似合い、少し衣紋をぬいた衿足えりあしの、なめらかに脂肪を包んだ肌が、吸いつきたいほどなまめかしく思えた。
雪と泥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お兼は子を産まないためか、肌のつやもよく、浮気性の女に共通のなまめかしさ、誘惑的な声と身ぶり、言葉よりずっと明確に意志を伝える眼つき、などをもっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
子供を一人産んで、なまめかしく成熟した女、良人おっとを持ち家庭を持つ一人の妻、そういう印象であった。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お兼は子を産まないためか、はだつやもよく、浮気性の女に共通のなまめかしさ、誘惑的な声と身ぶり、言葉よりずっと明確に意志を伝える眼つき、などをもっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おみやのようすはすっかり変っており、それまでのじだらくさや、なまめかしさはまったくみられず、兄である自分に対しても、はっきりと眼をあげてものを云った。
とうとう喧嘩けんかになってしまった。立膝をした裾合から水色縮緬ちりめんなまめかしいものがちらちらみえる。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の傍には、銀之丞の妹春枝が、後手に縛られて、くずれ牡丹ぼたんのようになまめかしく打伏している。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そうね、御存じないのがあたりまえですわね」とおみやはなまめかしいしぐさで、裾前や衣紋を直しながら、斜交はすかいに男を見た、「あたしあなたと同じ屋敷にいますの」
まだ病後のやつれはあるが、若い躯は恢復かいふくも早いらしく、皮膚はつややかになり、血色もよく、活き活きと光りをたたえた眼もとなど、一種のなまめかしささえ加わったようである。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やがて化粧の香料のつよい匂いが鼻につき若いからだのなまめいた姿が眼ざわりになった。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
顔つきも緊ったし、動作も、口のききようも、以前にはないきっとしたものがある。まえにはどこかしら崩れたような、じだらくなこびが感じられ、不道徳ななまめかしさが匂っていた。
しもぶくれのふっくらとしたあごと、受け口の、ひき緊ったくちつきと、そして右の眼尻にある、かなり大きな黒子ほくろとが、りんとした表情に、柔らかな、幾らかなまめいた印象を与えていた。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
背丈も低いほうであるが、調和のとれた、かたちのいいからだつきで、立ち居の姿に下町ふうのなまめかしさと、かなり濃厚ないろけが感じられ、それが他の六人のなかで際立ってみえた。
小麦色の細おもてに、眉が濃く、眼尻のあがった、いかにも勝ち気らしい顔だちであるが、小さい肩や、そこだけ緊って肉づいた腰つきなどに、洗練されたなまめかしさと色気が感じられた。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暗くしてある行燈あんどんの柔らかい光りで、金屏にかこまれた夜具の色が、きよらかななまめかしさをみせている。きぬは白無垢しろむくの上に打掛を重ね、両手を膝に置き、ふかく俯向うつむいたまま坐っていた。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女はショオルのあいだからなまめかしく、むしろ勝誇ったように笑っていた。
正体 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いささかのたるみもない肌はつややかに張っているし、髪の毛もたっぷりと黒く、青い眉のりあとや、その下に少しくぼんでいるつぶらな眼など、どちらかというとなまめかしくさえ感じられた。
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
黒門のお登女さまも出ていて、輿が通りかかるとなまめかしく杢助に挨拶した。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おみやは濃い化粧をした顔で、なにかを暗示するように、なまめかしく笑った。
手当てをしているのは津留である、彼女はぼっとなまめかしく上気していた。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
杉乃は子を産んでから少し肥え、色も白く血色もよくなり、健康ななまめかしさがあふれるようにみえた。けれども、そのときは顔もきびしく硬ばり、蒼ざめて眼は咎めるような光りを帯びていた。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かたく盛上った胸のふくらみも……今宵は見違えるようになまめかしい。
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちょっとなまめかしいくらい冴えた美しさにあふれていた。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あどけないほど柔軟で匂やかななまめかしさをもっていた。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)