姫百合ひめゆり)” の例文
神樂囃子かぐらばやし踊屋臺をどりやたい町々まち/\山車だしかざり、つくりもの、人形にんぎやう、いけばな造花ざうくわは、さくら牡丹ぼたんふぢ、つゝじ。いけばなは、あやめ、姫百合ひめゆり青楓あをかへで
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は、どうも詩というものは苦手だけれども、それでも、大月花宵の姫百合ひめゆりの詩や、かもめの詩は、いまでも暗誦あんしょうできるくらいによく知っている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
どちらも白やピンクの軽やかな洋装で、一人は蝶々のように軽快に、一人は姫百合ひめゆりのように静かに、むずかしい発掘事業を見て廻っているのでした。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
『まあ見事みごと百合ゆりはな……。』わたくしおぼえずそうさけんで、巌間いわまからくびをさししていた半開はんかい姫百合ひめゆり手折たおり、小娘こむすめのように頭髪かみしたりしました。
なるほど多加志の病室の外には姫百合ひめゆり撫子なでしこが五六本、洗面器の水にひたされていた。病室の中の電燈の玉に風呂敷か何か懸っていたから、顔も見えないほど薄暗かった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きょうはお客がお客なので床の間にけた姫百合ひめゆりの花の向きを気にしながら、お久は今朝からときどきそれを直していたが、四時が少し廻った時分に門の青葉をくぐって来るパラソルの影を
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
えうこそしか、姫百合ひめゆり木暗こぐれ俯居うつゐ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
しんならず、せんならずして、しかひと彼處かしこ蝶鳥てふとりあそぶにたり、そばがくれなる姫百合ひめゆりなぎさづたひのつばさ常夏とこなつ
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
松葉牡丹まつばぼたんが咲いている。姫百合ひめゆりが咲いている。ふと前方を見ると、緑いろの寝巻を着た令嬢が、白い長い両脚をひざよりも、もっと上まであらわして、素足で青草を踏んで歩いている。
令嬢アユ (新字新仮名) / 太宰治(著)
取りえずその花を下げたあとへ、水盤に燕子花かきつばた姫百合ひめゆりとを配して持って来たが、幸子はそれさえ重苦しく感じて、いっそ何もなしにして貰い、せいせいするような歌の掛軸をでもと夫に頼んで
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
姫百合ひめゆり姫萩ひめはぎ姫紫苑ひめしおん姫菊ひめぎくろうたけたとなえに対して、スズメの名のつく一列の雑草の中に、このごんごんごまを、私はひそかに「スズメの蝋燭ろうそく」と称して、内々贔屓ひいきでいる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……柱かけの花活はないけにしをらしく咲いた姫百合ひめゆりは、羽の生えたうじが来て、こびりつくごとに、ゆげにも、あはれ、花片はなびらををのゝかして、一筋ひとすじ動かすかぜもないのに、弱々よわよわかぶりつた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)