唐人とうじん)” の例文
吉原仁和賀よしわらにわか朝鮮行列七枚続しちまいつづきの錦絵につきて唐人とうじん衣裳いしょうつけたる芸者の衣裳の調和せる色彩に対してゴンクウルの言ふ所次の如し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
行手には唐人とうじんかむりを見る様に一寸青黒いあたまの上の頭をかぶった愛宕山あたごやまが、此辺一帯の帝王がおして見下ろして居る。御室おむろでしばらく車を下りる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何でもその時の話では、ふとした酒の上の喧嘩けんかから、唐人とうじんを一人殺したために、追手おってがかかったとか申して居りました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其のひとつの、和蘭館オランダかんの貴公子と、其の父親の二人が客で。卓子テエブルの青い鉢、青い皿を囲んで向合むきあつた、唐人とうじんの夫婦が二人。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これは唐人とうじんの姿をした男が、腰に張子はりこで作った馬の首だけをくくり付け、それにまたがったような格好でむちで尻を叩く真似をしながら、彼方此方あっちこっちと駆け廻る。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そのなかで変っているのは唐人とうじん飴で、唐人のような風俗をして売りに来るんです。これは飴細工をするのでなく、ぶつ切りの飴ん棒を一本二本ずつ売るんです
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
珠運しゅうん命の有らん限りは及ばぬ力の及ぶケを尽してせめては我がすきの心に満足さすべく、かつ石膏せっこう細工の鼻高き唐人とうじんめに下目しためで見られし鬱憤うっぷんの幾分をらすべしと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「なにを酔狂すいきょうなことを言ってるんですよ。唐人とうじんの寝ごとみたいな……じゃ、あたしゃ先に寝ますよ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はる、こうろう、も、それから、唐人とうじんきちも、それから青い目をした異人さんという歌も、みんなあたしが教えたのよ。きょうはこれからみんなでお寺に集ってお稽古けいこ
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「何んでも昔し羅馬ローマ樽金たるきんとか云う王様があって……」「樽金たるきん? 樽金はちと妙ですぜ」「私は唐人とうじんの名なんかむずかしくて覚えられませんわ。何でも七代目なんだそうです」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木材を愛す日本人に比較し、その事業を完成したのは、所謂唐人とうじん達の手柄であろうか。
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わしがそういって話すとあの唐人とうじん先生、日本にそういう鋳物師があるとは知らなんだ、鋳物でできるならもとよりそれに越したことはないという大喜びさ。どうじゃ。一つやって見んかね。
高さが四十六間と申しますから、半丁の余で、八角型の頂上が、唐人とうじんの帽子みたいに、とんがっていて、ちょっと高台へ昇りさえすれば、東京中どこからでも、その赤いお化が見られたものです。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
唐人とうじんゆうという大変な女ですよ」
折りまわした長い欄干てすりたまのように光っていた。千枝松はぬき足をして高い階段の下に怖るおそる立った。階段の下には彼のほかに大勢の唐人とうじんが控えていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かの唐人とうじん孫綮そんけいが『北里志ほくりし』また崔令欽さいれいきんが『教坊記きょうぼうき』の如きいづれか才人一時の戯著ぎちょならざらんや。然るに千年の後、今なほ風流詩文をよろこぶもの必ずこれを一読せざるはなし。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だれつらまえても片仮名の唐人とうじんの名を並べたがる。人にはそれぞれ専門があったものだ。おれのような数学の教師にゴルキだか車力しゃりきだか見当がつくものか、少しは遠慮えんりょするがいい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唐人とうじん阿魔あまなんぞにれられやあがつて、このあいめ、手前てめえ、何だとか、だとかいふけれどな、南京なんきんに惚れられたもんだから、それで支那の介抱をしたり、贔負ひいきをしたりして
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど彼女が、何をいってるんですよ、唐人とうじんの寝ごとみたいな——と言った時。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御覧ごろうじませ。あれは眇目ひがらめ唐人とうじんめでござりまする。」と、中間はかの異形の男を指さして教えた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いいえ、あなた。マドンナと云うと唐人とうじんの言葉で、別嬪さんの事じゃろうがなもし」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近頃四谷に移住うつりすみてよりはふと東坡とうばが酔余の手跡しゅせきを見その飄逸ひょういつ豪邁ごうまいの筆勢を憬慕けいぼ法帖ほうじょう多く購求あがないもとめて手習てならい致しける故唐人とうじん行草ぎょうそうの書体訳もなく読得よみえしなり。何事も日頃の心掛によるぞかし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ほんとうの名を唐人とうじん川というのだそうだが、土地の者はみな尾花川と呼んでいる。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして、おれは当時西国さいこくの博多に店を持って、唐人とうじんあきないを手広くしている。一年には何千両というもうけがある。それでお前を迎いに来た。大工の丁稚奉公などしていても多寡が知れている。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)