口書くちがき)” の例文
十六日の口書くちがき、三奉行の権詐けんさわれ死地しちかんとするを知り、ってさらに生をこいねがうの心なし、これまた平生へいぜい学問のとくしかるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
所詮町奉行所の白洲しらすで、表向の口供を聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である。
高瀬舟 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いや、かほどの功を、左様に誇称こしょうされては面目がありません。郁次郎から自白の口書くちがきをとった上は、すぐに、江戸表へさし立てましょう」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「此儘泣寢入りしては、人間の道に反きます。金兵衞とやらの口書くちがきを持參して瀧の口評定所へ驅け込み訴へをいたしませう」
願ひしかば程なく檢使けんし役人やくにん入來いりきたりて疵所きずしよを改め家内の口書くちがきをとり何ぞ心當りはなきやとたづねの時右彦兵衞が事を委細ゐさいに申立しにぞこれまた町所ちやうところ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
養生所の印をついた届書と、差配や長屋の人たちの口書くちがきとで幸い町方のほうはとがめなしに済んだが、それには一つの代償を払わなければならなかった。——というのは。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時、彼は掛りの役人から口書くちがきを読み聞かせられたので、それに相違ないむねを答えると、さらに判事庁において先刻の陳述は筆記書面のとおりに相違ないかと再応の訊問じんもんがあった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
辻番の一人は、矢立と紙を出して、お蝶の口書くちがきを取ろうとするものらしい。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わかってるじゃねえか、顎化あごばけと一騎打ちに行くのだ。……口書くちがき爪印つめいんもあるものか、どうせ、拷問いためつけて突き落したのにちげえねえ。……ひとつ、じっくりと調べあげて、ぶっくらけえしてやろう。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一、この回の口書くちがき、はなはだ草々なり。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
所詮しょせん町奉行の白州しらすで、表向きの口供こうきょうを聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを読んだりする役人の夢にもうかがうことのできぬ境遇である。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
率八の話を綜合そうごうしてみると、それは尾州家の若殿徳川万太郎が秘持していた「御刑罪おしおきばてれん口書くちがき」の綴文とじものに相違ない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きゝ母子諸共おやこもろとも先番屋へ引上ひきあげ勘兵衞が後家の家主をよび段々だん/\掛合かけあひの上屆に及びしかば檢使けんし出張しゆつちやうにて勘兵衞後家ごけならびに太七が口書くちがき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つれて來るが宜い。多分まだ口書くちがきを取つちや居ないだらう。主人の勝藏と内儀のお元もつれて來ると有難いが——
一、この回の口書くちがき甚だ草々なり。七月九日一通申立てたる後、九月五日、十月五日両度の呼出しも、差したる鞠問きくもんもなくして、十月十六日に至り、口書読み聞かせありて、直ちに書判かきはんせよとの事なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
明け方から根気よく、納屋蔵にこもって責めていた東儀与力は、口書くちがきを引っつかんで、羅門のいる役室へ飛び出して来た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくて其翌朝よくてう淺草諏訪町へ檢使けんしの役人出張相成老母の死骸しがいとくと吟味ありてお菊を始め同長屋の者の口書くちがきを取お菊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大抵のお白洲しらすでは、筋書通りそれを繰り返して口書くちがき拇印ぼいんを取り、最後の言ひ渡しをするだけであつたのです。
その日のとり下刻げこくに、上邸かみやしきから見分けんぶんに来た。徒目附、小人こびと目附等に、手附てつけが附いて来たのである。見分の役人は三右衛門の女房、伜宇平、娘りよの口書くちがきを取った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
また、金吾が取返してくると言って出た、かの洞白の面箱と、その底に秘めておいた「御刑罪おしおきばてれん口書くちがき」の綴文とじものの行方も、何とも気がかりでならない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
繩を打つたのはこの俺で、口書くちがきを取つたのは笹野の旦那だから、一應は話をして置かなきやア
酒井家から役人が来て、三人の口書くちがきを取って忠学に復命した。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
当夜の押込み五人組の強賊の——かおだちや年頃やらが、山善の召使や、重傷を負った夫婦の口書くちがきなどにより、かなりな輪廓りんかくが、それには、浮かび出ている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さうか、太い奴があるものだな。直ぐ口書くちがきを取つて、奉行所へ引いて行け。皆の者、御苦勞であつた。別して世之次郎は氣の毒だ。三之助が跡目あとめ相續濟んだ上は、よく世話をしてやるがいゝ」
「でも、吟味はすべて、江の島の方で済まし、自白の口書くちがきまで取った上に護送したのでございますから」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺された美人婆惜ばしゃく情夫いろ張文遠ちょうぶんえん(張三)である。——彼はすすんで事件の捜査係を買って出、兇行現場の死体調べから近所衆の口書くちがきあつめまで手を廻していた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面箱の底へしておいた、「ばてれん口書くちがき」の一じょうも、ぜひ、何とかして取り返さなければならない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは二月十四日の黄昏たそがれで、その夜は六波羅問罪所で、ひと晩、彼自身が源氏のはしくれでもあるので、取調べをうけたり口書くちがきを取られていたものとみえ、九条へは帰って来なかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取調べの口書くちがきによると、彼は捕われる幾日かまえに酒の上であろうが、妻に向って
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口書くちがきを取って、さらに、孔明は魏延や高翔を呼出して、一応の調べをとげ、最後に
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どんな僧でも、ここの玉砂利に引き据えられれば、一応の答えはしているのに、小野の文観ひとりは、空うそぶいて、口書くちがき一つ取らせず、役人たちでは、どうにも手におえなかった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
形式かたちばかりの口書くちがきにて、即刻、切腹仰せ付けられ、相手方の上野介には、却って、御賞美のお沙汰とは、余りに、異様なお裁きのように心得られ、世上の論議もいかがかと、心痛にたえませぬ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おきまりの拷問ごうもんとなった。たちまちにうめきの下、凄惨、目もくらむばかりな鮮血が白洲を染め、絶叫がつづく。そしてついに、心にもなき口書くちがきが取られ、その夕すぐ死刑囚の大牢へ送りこまれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口書くちがきの筆をとれ——という意味である。それから改まって
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)