危殆きたい)” の例文
我が国民はこれまで誤って外国人を危殆きたいに陥らしめるような事を度々やったけれども、これはその外国人の真相を知らんからである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
鎌倉は危殆きたいにひんした。あたかもこれ、かつて北条高時が、新田義貞の猛攻撃の中におかれたあの日を逆にしたようなものである。
国家の威令が危殆きたいに瀕していること、警察署長という神聖な肩書がむやみに濫用されていること等が明記されていたそうである。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
純一はこう思うと同時に、この娘を或る破砕し易い物、こわれ物、危殆きたいなる物として、これに保護を加えなくてはならないように感じた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
美貌花をあざむく繭子夫人の失踪しっそう後、ここに第三日を迎えた。しかし依然としてその手懸りはない。夫人の生命は今や絶対に危殆きたいひんしている。
容易ならぬことの一語に、危殆きたいの念愈々いよ/\高まれる大和は、躊躇ちうちよする梅子の様子に、必定ひつぢやう何等の秘密あらんと覚りつ、篠田を一瞥いちべつして起たんとす
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
在満邦人二十万の生命、財産は危殆きたいに瀕している。満鉄に対しては、幾多の競争線を計画してこれを圧迫せんとする。
私が張作霖を殺した (新字新仮名) / 河本大作(著)
戦後にわたって今に幾倍する国内の生活難を激成するならば、積極的自衛策どころか、かえって国民を自滅の危殆きたいに陥らしめる結果となるでしょう。
何故の出兵か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
吾人は支那を以て我が障壁と頼み、この障壁の撤せらるる其処そこに直ちに我が国運の危殆きたいを感ずるものである。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
内は敵愾てきがいの気を失い、人心は惰弱に風俗は日々頽廃たいはいしつつあるような危殆きたいきわまる国家は、これを救うに武の道をもってするのほか、決して他の術がないとは
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
海水はその緑なる苔皮たいひをして、高く石壁にぢ登らしめ、巍々ぎゝたる大理石の宮殿も、これが爲めに水中に沈まんと欲するさまをなし、人をして危殆きたいの念を生ぜしむ。
、一国の結婚が四以下の出生を生ずるときには、人口が極めて危殆きたいな状態にある、と云い、そして結婚の出産性を年出生の結婚に対する比率によって測定している。
年齢も四十となり貧窮も甚しくなるにつれて、彼の作品は益々「ポーズ的に」高雅なものとなりつゝあり、やがてポーズのためにガンヂがらめの危殆きたいに瀕しつゝあつた。
オモチャ箱 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
豈料あたはからんや藤原実美さねとみ等、鄙野匹夫ひやひっぷの暴説を信用し、宇内うだいの形勢を察せず国家の危殆きたいを思はず、ちんが命をためて軽率に攘夷の令を布告し、みだりに討幕のいくさおこさんとし、長門宰相の暴臣のごと
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
京都では叡山の衆徒が浅井朝倉の軍を助けて信長の京都把握を危殆きたいに陥れた。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そしていかにして危殆きたいに迫っているのか? したがって自分らは左膳にくみしてどんな筋に刃向かうのか、敵は何ものなのか、そもそも何がゆえに左膳は戦い、またじぶん達もそれに加勢して
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其様な事が二三度もつゞいた。其れで自衛の必要上白は黒と同盟を結んだものと見える。一夜いちや庭先にわさきで大騒ぎが起った。飛び起きて見ると、聯合軍は野犬二疋の来襲に遇うて、形勢頗る危殆きたいであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なんで提督には、今この国家の危殆きたいにのぞみながら、民間の二女を送るぐらいなことを、そう惜しんだり怒ったりされるのですか
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若し旅中に事があつて、蘭方医と漢方医とが見る所を異にすると、柏軒先生は自ら危殆きたいの地位に立つて其衝に当らなくてはならぬのであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一、足尾の鉱毒が渡良瀬河岸被害の一原因たることは、試験の結果に依りて之を認めたりといへども、此被害たる、公共の安寧を危殆きたいならしむる如き性質を有せず。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
年齢も四十となり貧窮もはなはだしくなるにつれて、彼の作品は益々「ポーズ的に」高雅なものとなりつつあり、やがてポーズのためにガンジがらめの危殆きたいひんしつつあった。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
チベットではある種類の病人は日中睡ったためにだんだん発熱が増加して危殆きたいに陥ることがある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
無態度の態度は、かたはらより看れば其道が険悪でもあり危殆きたいでもあらう。しかし素人歴史家は楽天家である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「夢はまぎれもなく正夢だ。梁山泊へ帰れとのお告げなのにちがいない。ここにいては宋先生の治療もかなわず、全軍もまた危殆きたいちよう。すわ大事、すわ大事」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして現朝廷の危殆きたいがまた、それでなければ幸いだがと思うと、ふと道も暗いここちになった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一日あるひ柏軒はこれを診して退き、「今日の御容態は大分宜しい」と云つた。然るにぢよの病は程なく増悪ぞうあくして死に至つた。是より正教は柏軒をうとんじ、柏軒の立場はすこぶる危殆きたいに赴いた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
荊州の危うきときは、漢川かんせん危殆きたいに瀕し、漢川を失えば蜀もまた窒息ちっそくのやむなきに至りましょう。いずれにせよ、長江波高き日は、玄徳が一日も安らかに眠られない日です。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これというのも、かつて、この徐州が、曹操の大軍に囲まれて危殆きたいひんした折、それがしが、彼の背後の地たる兗州えんしゅうを衝いたので、一時に徐州は敵の囲みから救われましたな。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊氏の弟直義の一勢が、久原川の危殆きたいに陥ちたかたちなので——もし尊氏が、それの救援にうごいたら、ただちに、陣の側面を突いてやろうと、虎視眈々こしたんたんでいたものだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「魏の安危はこのときにあり」となして、魏帝曹叡そうえいは急使を渭水いすいに派して、この際、万一にも、蜀に乗ぜられるような事態を招いたら、それは決定的に魏全体の危殆きたいを意味する。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耿武こうぶは、身を挺して、袁紹えんしょうを途上に刺し殺し、そして君国の危殆きたいを救う覚悟だった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
特に、後白河法皇のおわす院と、平相国へいしょうこく清盛が一門平氏の上にあった。けれど、やがて崩壊ほうかいをきたす危殆きたいの素因も、また、華やかなる栄花的謳歌の門と、到底、両立し難い院と平家の間にあった。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とはいえ、姜維きょういらのこの意気は愛すべしだが、ために、費褘ひいの言なども多くは耳をかさず、求めて欠陥を生じ、急いで国家を危殆きたいへ早めて来たこともまた、否み得ない作用であったというしかない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)