初茸はつたけ)” の例文
一向人も来ないやうでしたからだんだん私たちはこはくなくなってはんのきの下のかやをがさがさわけて初茸はつたけをさがしはじめました。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その郷里の家からは、烟草屋の二階に室借をしていた独身時代にも、時々林檎りんごや柿を寄越よこしてくれたが、今年は初茸はつたけ湿地茸しめじだけを送って来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
一度は一軒置いてお隣りの多宝院の納所なっしょへ這入り坊さんのお夕飯に食べる初茸はつたけの煮たのをつまんでいるところをつかまえました。
ひらははんぺんにしょうず、初茸はつたけはおろしあえにしょうず、いや、お坪がよかろうずと腰をまげ、あたふたと家もせましと慌てまわるのである。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
古新聞で火をつけて、金網をかけました。処で、火気は当るまいが、溢出はみでようが、皆引掴ひッつかんで頬張る気だから、二十ばかり初茸はつたけを一所に載せた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初茸はつたけの四寸、さけのはらら子、生椎茸なましいたけ茄子なす、胡麻味噌などを取りそろえて、老尼がお給仕に立つと、侵入者が言いました
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
林の中一面に松茸まつたけ初茸はつたけやしめじや……金茸きんたけ銀茸ぎんたけなどが、落葉やこけの中から頭を出してるではございませんか。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして秋だったら、由布山のふもと一周ひとまわりして来れば、初茸はつたけかご一杯とれるのにと残念がってくれた。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
秋には、初茸はつたけ、土かぶり、なめこなどのキノコ類が、アヤの形容に依れば「かさつてゐるほど」一ぱい生えて、五所川原、木造あたりの遠方から取りに来る人もあるといふ。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
そう心付いて見れば一同の座敷も同じ事、先ほど誂えた初茸はつたけの吸物もまたは銚子ちょうしの代りさえ更に持って来ない始末である。別に大勢の客が一度に立込たてこんで手が足りぬというのでもないらしい。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
運よく初茸はつたけを実にした味噌汁があったので助かった。
四十年前の袋田の瀑 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一向いっこう人も来ないようでしたからだんだん私たちはこわくなくなってはんのきの下のかやをがさがさわけて初茸はつたけをさがしはじめました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その日のうちに、果しておなじような事が起ったんです。——それは受取った荷物……荷はかごで、きのこです。初茸はつたけです。そのために事が起ったんです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この附近の石占山いしうらやまというところは、文化文政の頃から茸の名所となってはいるが、そこで取れる茸は、松茸まつたけ湿茸しめじ小萩茸おはぎたけ初茸はつたけ老茸おいたけ鼠茸ねずみたけというようなものに限ったもので、そこから毒茸が出て
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だん/\近くへ行つてみると居なくなつた子供らは四人共、その火に向いて焼いた栗や初茸はつたけなどをたべてゐました。
狼森と笊森、盗森 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
初茸はつたけなんか、親孝行で、夜遊びはいたしません、指をくわえているだよ。……さあ、お姫様の踊がはじまる。」
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だんだん近くへ行って見ると居なくなった子供らは四人共、その火に向いて焼いた栗や初茸はつたけなどをたべていました。
狼森と笊森、盗森 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うちこぼし投げ払いし籠の底に残りたる、ただ一ツありし初茸はつたけの、手の触れしあとのさびつきてまだらに緑晶ろくしょうの色染みしさえあじきなく、手に取りて見つつわれ俯向うつむきぬ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつも松露の香がたつようで、実際、初茸はつたけ、しめじ茸は、この落葉に生えるのである。入口に萩の枝折戸しおりど、屋根なしに網代あじろがついている。また松の樹をいつ株、株。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近山裏の谷間には、初茸はつたけの残り、からびた占地茸しめじもまだあるだろう、山へ行く浴客も少くなかった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松茸まつたけ初茸はつたけ木茸きたけ岩茸いはたけ占地しめぢいろ/\、千本占地せんぼんしめぢ小倉占地をぐらしめぢ一本占地いつぽんしめぢ榎茸えのきだけ針茸はりだけ舞茸まひだけどくありとても紅茸べにたけべにに、黄茸きだけに、しろむらさきに、坊主茸ばうずだけ饅頭茸まんぢうだけ烏茸からすだけ鳶茸とんびだけ灰茸はひだけなど
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あゆの大きいのは越中の自慢でありますが、もはや落鮎になっておりますけれども、放生津ほうじょうづたらや、氷見ひみさばよりましでありまするから、魚田ぎょでんに致させまして、吸物は湯山ゆさん初茸はつたけ、後は玉子焼か何かで
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)