優男やさおとこ)” の例文
正司と常友は幼児から菓子屋と料亭へ小僧にあがった根からの町人で腕が立つとも思われませんし、幸平も武道には縁のない優男やさおとこ
「いま帰って来たところだ。……甲府は風が荒いでな、おれのような優男やさおとこは住み切れねえ。……おい、またしばらく厄介になるぞ」
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そう言うお前さんは、真三郎さんという優男やさおとこの本色を失って、どうやら、金蔵さんとやらの不良が乗りうつっているようです」
同じサーカスで奇術に出ていた優男やさおとこなんですが、今上海シャンハイで興業しているんです。伯爵は無論そんな男のあることは知らないし。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
これでもひげを剃ると惚れ惚れするような優男やさおとこだぞ……手品の手伝いみたいなものを遣っているうちに、困った事が出来た。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主人の六兵衛は呆気あっけに取られました。一人娘のお美代を殺したのは、一番忠実らしい顔をしていた優男やさおとこの谷五郎とは思いも寄らなかったのです。
色の生青なまあお優男やさおとこであるが、その眼は、二枚の剃刀かみそりのように、不気味に鋭い。ひょろりと背の高いのが、一種病的な感じだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
成るほど此の男は一廉ひとかどの大名らしい品格と貫禄かんろくとを備えているけれども、何だか優男やさおとこじみていて、二萬の大軍に号令する武門の棟梁とうりょうの威風がない。
案外な優男やさおとこである。後醍醐や尊氏や、あんな烈しい戦乱期の人々をほとんど弟子視して、自由に生きとおした一禅人は、こんな柔和な人だったのか。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
息子の幸吉は、三十近い、色のなまちろ優男やさおとこである。父親おやじ命令いいつけを取り次いで、大勢の下女下男に雑用の下知を下しながら仔猫のようにび廻っていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
美妙が私と同齢の青年であるとは前から聞いていたが、私の蓬頭垢面ほうとうこうめん反対ひきかえてノッペリした優男やさおとこだったから少くも私よりは二、三歳弱齢とししたのように見えた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
老若まじえて十二人の武士がずらりと室に並んでいた。頬髯ほおひげを生やした厳しい顔、青黛せいたい美しい優男やさおとこ眉間みけんに太刀傷をまざまざと見せた戦場生残りらしい老士おいざむらい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
旅館の方には、お島より二つ年下の娘の外に、里から来ている女中が三人ほどいたが、始終帳場に坐っている、色の小白い面長な優男やさおとこが、そこの主人であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男ぶりといい人品ひとがらといい、花のかんばせ月の眉、女子おなごにして見まほしき優男やさおとこだから、ゾッと身にうした風の吹廻ふきまわしであんな綺麗な殿御とのご此処こゝへ来たのかと思うと
なんでも明治三十年代に萩野半之丞はぎのはんのじょうと言う大工だいくが一人、この町の山寄やまよりに住んでいました。萩野半之丞と言う名前だけ聞けば、いかなる優男やさおとこかと思うかも知れません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山田より前だのあとだのとあげつらわれたり、幸田露伴の「五重の塔」や「風流仏ふうりゅうぶつ」に、ぐっと前へ出られてしまってはいたが、美妙斎の優男やさおとこに似合ぬ闘志さかんなのが
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伊田見男爵と名乗る優男やさおとこが、村の一小学教師をたずねて、この牛久沼畔へ出現ましました。
沼畔小話集 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
どんな優男やさおとこかと思っていたらそれが鬼将軍のような男性美の持主であったのである。
その泰平はあてにならない気がした頃のことだ、色の白い、骨細の優男やさおとこの宮内より、たくましい体をもって、力も人並以上あり、起居たちいも雄々しい慎九郎の方が、治部太夫の娘の気に入った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
西蔵チベット産の蛇酒の空瓶が並んでいるし、壁には優男やさおとこの役者の黄金台の画が貼ってあるし、いや、それより、何より参木の着ているこの蒲団は、もう男たちの首垢で今はぎらぎら光っているのだった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
全くその通り、どう見直しても、眼前にいるこの男は、自分が一途いちずに想像して来たような、生白なまっちろ優男やさおとこではありませんでした。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女房たちは勿論もちろんそれに気が付いていたのであるが、今の場合北の方にはゞかって、此の優男やさおとこの噂をするのを差控えながら、心の中では左大臣と比較して
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
優男やさおとこというと当らない、男おんなもチトへんかな、つまり女にもみまほしき男子なのである。そうはいっても顔がきれいだとかなんとかいうのではない。
南部の鼻曲り (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いやいや、十郎左は、あのような優男やさおとこでござるが、酒は、したたかにりまするぞ。伝右殿、お逃がしあるな」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たかが神尾一人ではないか、捜索隊そうさくたいは一たい何をしている! が、それにしても、あの優男やさおとこの喬之助めが、かかる剣腕の所有者であるとは知らなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
六兵衛を引っ立てて、飛んで行ってみると、お雛を小脇に抱えた手代の重三、女のような優男やさおとこに似気なく八五郎を大地に叩き付けて、起き上がろうとするのへ匕首あいくちが——。
尾越は女のような優男やさおとこだ。顔ばかりでなく、悪人だがどこか優しいところがあるとみえて一仕事やるとね、早速ニュースに出た哀れな家庭へ現われて、ほどこして行くんだ。
深夜の客 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
オレもフランケンには三四度会って話をしたことがあるが、好男子で、大そう如才がなくて、鼻筋も唇も目も、顔全体がみんな薄々とした優男やさおとこだな。この顔相はロベスピエールに似ているぜ。
武骨かというに武骨ではなく、柔弱に見えるほどの優男やさおとこ。そうして風流才子であった。彼は文学が非常に好きで、わけても万葉の和歌を愛した。で今度の三崎行も西行を気取っての歌行脚うたあんぎゃであった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一廉ひとかどの人物のように言いはやされた能登守、それをこうして見ると、振られて帰る可愛い優男やさおとことしか思われないのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すらっとして優男やさおとこで、何よりも、その顔だ。じつに美男で——美男というと、いやにのっぺりしているように聞こえるが、のっぺりしていない美男なのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『伝右どの、十郎左はあのような優男やさおとこでござるが、酒はしたたかにりまするぞ。御用捨あるな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前科七犯の小男で、ナデ肩の優男やさおとこだという。
髪は惣髪そうはつに結んであるので、一見、女にも見まほしいといったような優男やさおとこには見えるが、そこに、なんとなく稜々たる気骨の犯し難きものを、白雲が見て取りました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それこそしんとんとろりと油壺から抜け出て来たような容貌自慢の優男やさおとこが、風流紅彩色姿絵ふうりゅうべにいろすがたえそのままの衣裳をらして、ぞろりぞろりと町を練り歩いたもので、決して五尺の男子が
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こう言いながらこの場へ駈け込むようにしたのは、旅の姿はしているがつやつやしい優男やさおとこ
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)